高齢者への薬物治療は腎機能や肝機能を考慮する必要があることはもちろん、ムリなく服用できるか、残薬がないかなどの気遣いも必要です。
腎機能や肝機能に応じて投与量を調節する薬が多いことからも、超高齢社会を生きる日本では、高齢者に強い薬剤師が間違いなく今後必要とされます。
しかし「高齢者へ自信をもって服薬指導できない」「薬の管理がこれで合っているのか不安…」という薬剤師も多いでしょう。
そんな薬剤師のために2016年に発足したのが日本老年薬学会です。
今回は老年薬学会が行っている取り組みや、老年薬学認定薬剤師になるための方法を詳しく解説します。
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この記事の目次
一般社団法人 日本老年薬学会とは
「日本老年薬学会」について、まだあまり詳しくは知らない薬剤師も多いかと思います。発足されたのが2016年なので、比較的まだ新しい学会なのです。
はじめて日本老年薬学会の名前を聞いた方にもわかりやすいように、まずは基本的な日本老年薬学会の役割や取り組みについてご紹介します。
日本老年薬学会設立の目的
“老年”という言葉が入っている通り、日本老年薬学会は高齢者の医療を守るために設立されました。日本では2007年の時点ですでに65歳以上の高齢者の割合が21%を超える、超高齢社会に突入しています。
出生率も近頃では年々低下しており、2018年の出生率は1.42となりました。2025年には団塊世代の方が75歳を超え、さらに人口の約30%が高齢者になると予想されていることから、高齢者に対する医療提供の方法も見直しがされているのはご存知の方も多い事実です。
確実に高齢者が増えていく今の日本で、薬剤師に求められているものとは何なのでしょう。
在宅医療の推進はすでに進められていますね。体感としても在宅医療を行う調剤薬局が増えてきたように感じます。この他にも高齢者に適切な薬物治療を提供できるかどうか、根本的な部分にも目を向けなければなりません。
腎機能や肝機能、さらには体力や認知能力などが低下している高齢者に対して、適切な医療の提供ができる環境作りを目的として日本老年薬学会が設立されました。
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高齢者の安全な薬物療法ガイドラインを発行
日本老年薬学会の会員にならなくても読めるガイドラインが公開されています。年を取るにつれて薬物の吸収や分布がどのように変化するのか、どのような薬物相互作用に注意すべきかなどが詳しく解説されているガイドラインです。
各疾患において薬物使用の安全性についても書かれています。たとえば以下のような内容です。
- COPD患者における非選択的β遮断薬の使用は安全か?
- 高齢者の転倒と降圧治療に関連はあるか?転倒を起こしやすい降圧薬はあるか?
- NSAIDs投与は腎機能低下のリスクを高めるか?
- 高齢者においてPPIの長期維持療法は安全か?
このような疑問に対してそれぞれ論文に基づいた情報で解説がされています。全170ページにも及ぶ内容がすべて公開されていますので、ぜひ一読しておきたいものです。
ガイドブックとは別に、以下のような書籍も出版していますので、気になる方はこちらも参考にしてみてください。
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高齢者の副作用についてパンフレットを発行
参考:多すぎる薬と副作用
「高齢者が気をつけたい多すぎる薬と副作用」も無料で閲覧できます。
- 高齢者がいくつくらい薬を飲んでいるのか
- 服用している薬の数と副作用の相関性
- 高齢者で起こりやすい副作用
- なぜ高齢者で副作用が起きやすくなるのか
- 高齢者が注意すべきお薬
など、薬学生も知っておきたい高齢者と薬の関係について、わかりやすく説明されているパンフレットです。基本的な内容にはなりますが、あらためて高齢者の服薬について意識を持たせられる内容となっています。
日本老年薬学会雑誌の公開
参考:日本老年薬学会雑誌
日本老年薬学会雑誌も会員以外の方でもサイトからアクセスして閲覧できます。雑誌という名前ではありますが、どちらかというと研究結果や症例報告などが掲載されている専門書に近いイメージです。
高齢者を取り巻く医療現場で起きた事例を知るために役に立つ内容でしょう。
公開シンポジウムの開催
※画像をタップすると拡大できます
老年薬学会では、会員の方でも非会員の方でも参加できるシンポジウムを開催しています。老年薬学認定薬剤師の認定に必要な単位もここで取得可能です。
日本老年薬学会の会員であれば無料、非会員であれば1,000円が必要となります。参加を希望する方はサイトから事前申し込みが必要です。
この他にも日本薬剤師研修センターや、日病薬病院薬学認定薬剤師制度研修の単位も取得できる予定になっています。
老年薬学認定薬剤師とは
「老年薬学認定薬剤師」という言葉が上で少し出てきましたね。高齢者に対して適切な薬物治療を行えるように、老年薬学会では認定制度も設けています。
2019年10月1日時点では208名の薬剤師が老年薬学認定薬剤師を取得しています。
以下の資質のある薬剤師を教育することが認定制度の目的です。
- 老年症候群の主要な症状(誤嚥,転倒,せん妄,認知症,排尿障害,寝たきり,褥瘡など)を有する高齢者に対し薬学的管理・指導をすることで,生活の質(Quality of Life)の改善に寄与することができる
- 多くの疾患を抱える高齢者に対して包括的な薬学的管理・指導ができる
- 薬物関連問題(多剤処方,重複投薬・相互作用,薬物有害事象など)を抑制するために,処方を見直し,医師に提言することができる
- 高齢者施設や在宅の環境整備,感染防御,医薬品の安全管理に関わることができる
- 薬学的知見に基づいて,チーム医療,医療・介護・福祉の連携の中で,提案や調整などができる
- 高齢者に関する基礎研究,臨床研究を理解して,Evidence-Based Pharmaceutical Care に寄与することができる
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老年薬学認定薬剤師になるには
認定を取得するためにはもちろん単位の取得や、薬剤師としての経験が必要となります。
老年薬学認定薬剤師の申請の流れ
後で紹介する認定に必要な要件を満たして、その上で認定試験の合格や必要な単位の取得をすると申請ができます。
認定を受けた翌年度から数えて5年目に更新の手続きが必要です。
認定に必要な要件
老年薬学認定薬剤師になるためには、以下の要件を満たしていなければなりません。
- 薬剤師免許を取得後 3 年以上経過していること
- 3年度以上引き続いて本学会の一般会員であること
- 所属長(病院長あるいは施設長等)または保険薬局においては開設者の推薦があること
- 業務を通じて高齢者の薬物療法の有効性または安全性に直接寄与した症例を 10 症例報告できること
- 本学会が指定する研修等を受講し 4 年度以内(申請年度を除く)に 30 単位以上を取得すること
- 本学会が指定する実技実習などを 4 年度以内(申請年度を除く)に 3 項目以上受講すること
- 認定試験を合格した者であること
認定を取るためには老年薬学会の会員になる必要があります。医師や薬剤師が加入する一般会員は年会費5,000円です。学生や大学院生であれば年会費1,000となります。
続けて3年以上会員になっている必要があるので、残念ながら今から会員になる方ですと少なくとも3年は認定を受けられません。少しでも老年薬学認定薬剤師に興味のある方はなるべく早めに入会しておきましょう。
まとめ
とくに慢性疾患を持った高齢者には薬物が漫然と投与されがちです。カルテを見られない調剤薬局だとなかなか患者さんの数字を確認できないので、安全性について不安になることもあるでしょう。
高齢者の割合が増えていく日本で、どのように高齢者に薬物を投与していくべきか、何に気をつけなければならないのかについて、老年薬学認定薬剤師を目指すことでしっかりと学んでいけるでしょう。
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