薬剤師の仕事といえば病院や調剤薬局のように、調剤を行う仕事が多いです。しかし薬剤師の仕事はそれだけではありません。まったく調剤を行わないような仕事もあるのです。その例として挙げられるのが薬事監視員という仕事。
普段あまり見聞きすることがない仕事かもしれませんが、医薬品や化粧品の安全性を守る、重要な役割をはたしている仕事です。今回はこの薬事監視員になるために必要な知識、仕事内容、年収などについてご紹介していきます。
この記事の目次
薬事監視員って何?
薬事監視員とはその名の通り、薬事に関する取り締まりを行う仕事のことです。
現在は薬事法ではなく薬機法と呼ばれる法律になっており、この薬機法に則って医薬品や医療機器などの品質や有効性、安全性などを取り締まる仕事です。 具体的にどのような仕事をしているのかを紹介します。
薬事監視員の仕事内容
薬機法に則って有効性や安全性を取り締まるといっても、具体的に何をするのかちょっと想像しにくいですよね。簡単に薬事監視員の仕事内容を見てみましょう。
施設への立ち入り検査
医薬品や化粧品、医療機器などを取り扱う業者は、取り扱いを開始する際に届出が必要となります。その届出の内容が実際の施設の状態と合致しているのかを直接施設に立ち入って検査を行います。
薬品を扱う場所に薬剤師が置かれているかの確認
薬剤師が必要な場所、たとえば薬局やドラッグストアなどにきちんと薬剤師が配置されているかの確認をします。
まれに薬剤師が名義だけ貸してまるで幽霊部員のような存在になっているところもあるので、薬事監視員がチェックするのです。
医薬品や医療機器などの自主回収に関する情報を公開
医薬品や医療機器はたびたび自主回収をしています。いつ何が、どのような理由で回収になったのかを公開するのも薬事監視員の仕事の1つです。
参考:医薬品等の回収に関する情報 2021年度クラスI(医薬品)
この画像のように、医薬品医療機器総合機構のページで自主回収の情報が随時更新されています。
参考:回収概要
自主回収となった対象ロットや製造販売業者名、回収理由、回収開始年月日などを記載します。
虚偽広告や誇大表現などがないかの確認
医薬品や化粧品などを売るためには、商品の特徴をホームページやパッケージに記載しますよね。その記載内容が薬機法に違反していないかを確認します。
たとえば「この美容液でシミが消えます!」と書いてある美容液があったら、これは薬機法違反ですね。化粧品ですでにできてしまったシミを消せると謳うことはできません。
化粧品会社がうっかり薬機法違反の広告を作ってしまっているケースもあれば、わざと悪質な広告を出している企業もあります。ひどい場合だと「この水を飲めばガンが消えます!」のように虚偽広告を出しているもときにはあるものです。
消費者の健康を害さないために、薬事監視員はこのような広告にも目を行き届かせておかなければなりません。
このように仕事内容は多岐にわたりますが、基本的には薬機法に則って違反をしていないかなどを確認や調査をし、有効性や安全性を守っていく仕事となります。
薬事監視員に必要な知識やスキル
薬事監視員は薬機法に違反していないかを確認するような仕事が多くあります 。
そのため必要最低限の薬機法の知識が必要です。医薬品、化粧品、医薬品医療機器とそれぞれににおいてどのような表現ができるのか、許容表現の違いを押さえておかなければなりません。
薬機法の知識の他に、情報を収集する力や仕事に対する責任感も必要です。インターネットを開けば薬機法に違反するような広告はけっこう見つかります。ときには違反をしている企業に行政処分をくだすこともあるでしょう。
内容によっては営業停止に追い込むこともあります。そのため正しい判断をし続ける能力や責任感も必要となってくるのです。
薬事監視員の年収
薬事監視員の年収は約600万円です。薬事監視員は国家公務員なので、同様に国家公務員の平均年収を参考にすることができます。
平成29年国家公務員給与等実態調査の結果によると 行政職につく国家公務員の平均給与月額は約33万円です。
これに地域手当や扶養手当などの各種手当を入れると月額約40万円となり、さらにこれにボーナスをたすと年収約600万円になります。
薬事監視員になるには
実は薬事監視員になりたいと思った方が誰でもなれるわけではありません。薬事監視員になるには資格を取ったり経験を積んだりすることも必要です。
その上、運良く薬事監視員という役割に配属されなければこの仕事に就くことはできません。運要素も大きいのが実際のところでしょう。
ではどうすれば薬事監視員になれるのでしょうか。一般的な流れをご説明していきます。
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医師や薬剤師などの資格を取る
薬事監視員になるには、薬剤師や医師、獣医師、歯科医師などの資格が必要となります。つまり基本的にはこれらの資格が取得できる大学を卒業していないとなりません。
ただし例外として、医師や薬剤師などの資格を持っていなくても医学や薬学に関する専門課程を修了し、さらに1年以上薬事行政に関わったことがある方であれば薬事監視員になることが可能です。
国家公務員試験を受験
薬事監視員は国家公務員ですので、国家公務員の試験も受験する必要があります。薬剤師国家試験の勉強と並行して国家試験の勉強もしなければいけないと考えると、どれだけ大変かがわかるでしょう。
日本史や世界史、物理などが出題範囲となる教養試験、専門試験、人物試験などさまざまな試験内容を受ける必要があります。
任命されるまではなれない
薬剤師国家試験と国家公務員試験に合格し、さらに保健所や薬務課などに内定を貰います。これでやっと薬事監視員として働く準備が終わりです。
ここからさらに内定先で経験を積み、実力が認められると薬事監視員として任命される可能性が出てきます。任命されるまでは薬事監視員になることができません。
薬事監視員のやりがい
薬局やドラッグストアで働いている薬剤師からすれば、薬事監視員はあまり良いイメージがないかもしれません。なぜなら違反しているところがないか隅々までチェックされるからです。もし違反しているところが見つかれば、対応しなければなりません。
そんな薬事監視員のやりがいとは、いったい何なのでしょうか。
国民の健康を守れる
薬事監視員のやりがいは、日本全国の国民の健康を守れることでしょう。
しかし薬事監視員がいなければ、薬剤師が正しく配置されなかったり、医薬品や医療機器の管理が杜撰になってしまう恐れがあります。医薬品の自主回収なども薬事監視員が関わっているため、国民の生活を守る上で欠かせない存在です。
インターネット社会が進むにつれ、ますます活躍は増える
スマートフォンが普及したこともあり、誰もが好きなときに好きな場所でインターネットにつないで情報を見れます。見るだけでなく、情報の発信も可能です。
誰でも情報のやり取りが可能になったため、意図せず違法な医薬品を売ったり買ったりしてしまうこともあるかもしれません。
薬事監視員は、誰もが使えるインターネット上に広がっている医薬品や化粧品の管理もしなければなりません。インターネットを使う方が増えれば増えるほど、薬事監視員の活躍の場も増えていくでしょう。
まとめ
薬事監視員の仕事は、施設への立入検査や薬剤師の配置確認、薬機法に違反する広告がないかを確認することが主な内容です。薬機法に関する知識はもちろんのこと、情報を仕入れる力や仕事に対する責任感も必要となります。
薬事監視員になるには薬剤師国家試験の他に国家公務員試験にも合格する必要があるため、人一倍勉強しなければなりません。また薬事監視員へ任命されるまで待たなくてはいけないので、なるのがやや難しい職業といえるでしょう。