新しい職場への転職を検討したり、老後の資金計画を立てたりする際に、退職金がどのようになっているか気になるのではないでしょうか。
退職金の支給の有無は、労働条件通知書や募集要項を確認することで確認できますが、具体的な金額については明らかにされていないことがほとんどです。
しかし退職金制度のことを上司に聞くと、「辞めようとしている」と疑われてしまうリスクもあるため、職場の直接確認することは困難です。
そこでこの記事では、薬剤師の退職金の仕組みや平均相場について、解説していきます。
薬局薬剤師
退職金の基本を知ろう
まずは退職金の概要や相場についてみていきましょう。
退職金とは
退職金(退職手当、退職慰労金)とは、退職した労働者に対し支払われる金銭のことをあらわしています。
退職金と呼ばれるものには、主に次ぎのようなものがあります。
- 退職金一時金
- 確定給付企業年金
- 確定拠出年金
- 厚生年金基金
企業によってどの退職金を扱っているのかが異なるので、一度確認しておきましょう。
金額は、主に退職日における勤続年数と職能に応じて算定されますが、法律による定めはないため、会社ごとに支給率は異なります。
主任や課長など役職が高い場合や、管理薬剤師や薬剤部長などの役割を任せられている場合など、同じ勤続年数であっても職能が高くなれば、退職金の額も大きくなることが特徴です。
また退職金は、「退職所得」として所得税と住民税が課せられますが、勤続年数に応じた控除があり、税率も通常の給与よりも低い率になっています。
詳しく【徹底解説】派遣薬剤師の転職でおすすめ派遣会社・時給相場・メリット・デメリットなどまとめました!
職場によって退職金の事情は異なる
薬剤師がはたらくことのできる職場はさまざまであり、職場によって退職金の事情は大きく異なります。
調剤薬局やドラッグストア
大手チェーン調剤やドラッグストア、製薬企業など、母体がある程度大きい場合では、まとまった額が支給されることもあります。
しかし個人薬局や小規模チェーン調査では、退職金は少なくなる傾向にあります。
病院
一方で、国立病院や保健所などではたらく薬剤師においては、地方公務員に準じた退職金制度が適用されるため、退職金の額は民間企業ではたらく薬剤師に比べて大きくなりがちです。
職能によっては、勤続35年で1,000万円を超える退職金が支給されることもあるので、公務員を選択するメリットの一つとして退職金制度を挙げる方も少なくありません。
薬剤師の退職金の相場はどれくらい?
いま勤めている職場において、どれだけ退職金が支給されるのかということは、就業規則や退職金規定に明記されています。
しかし会社の規模や仕組みによっては、就業規則や退職金規定の確認が難しいという方も、決して少なくはありません。
退職金はそれぞれの職場の制度や個人の職能によって大きく異なるため、一概に金額をお示しすることは困難です。
そこで退職金の世間相場に関する資料として、東京都産業労働局が中小企業を対象に調査、集計したモデル退職金額表をご紹介します。
▼タップで拡大表示できます
参照:中小企業退職金共済事業本部|モデル退職金額表)
こちらの表に自身の職場の規模や勤続年数をあてはめることで、退職金額を推定することが可能です。とくに調剤薬局やドラッグストアで働いている方は、上記の表に近い退職金が貰えると考えられます。
国立病院の場合は公務員と同等の扱いとなり、勤続35年以上で1,000万円以上貰えるようです。
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貰える退職金の計算方法
大まかな退職金は、下記の式で求めることができます。
自己都合退職の場合は給付率が約58%、会社都合退職の場合は約67%であることが一般的ですので、この数字を入れて計算してみてください。
基本給を30万円とした場合、どれくらいの退職金が貰えるのかを計算してみました。
勤続年数 | 自己都合退職 | 会社都合退職 |
---|---|---|
3年 | 52.2万円 | 60.3万円 |
5年 | 87万円 | 100.5万円 |
10年 | 174万円 | 201万円 |
15年 | 261万円 | 301.5万円 |
20年 | 348万円 | 402万円 |
25年 | 435万円 | 502.5万円 |
30年 | 522万円 | 603万円 |
35年 | 609万円 | 703.5万円 |
新卒で入ってからそのまま定年退職するまでいた場合、退職金は600~700万円ほどです。だいたいの目安として覚えておくと良いですね。
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退職金を貰いたい薬剤師が注意すべき4つのこと
前項では退職金の概要や相場をご紹介しました。次に注意すべきポイントについてもみていきましょう。
注意点1.自己都合退職と会社都合退職で金額が大きく異なる
前項でご紹介した表からわかる通り、自己都合退職と会社都合退職では、退職金の額が大きく異なります。
転職などによる自己都合退職では、定年退職や整理解雇などの会社都合退職に比べ、退職金の額が少なく規定されていることが一般的です。
独立行政法人国立病院機構においても、それぞれの勤続年数に応じて退職手当が規定されていますが、会社都合退職では退職金が上乗せされていることがわかります。
勤続期間 | 一号(自己都合) | 四号(定年退職) | 八号(整理解雇) |
---|---|---|---|
5年 | 2.511 | 4.185 | 6.2775 |
10年 | 5.022 | 8.37 | 12.555 |
15年 | 10.3788 | 16.216875 | 19.46025 |
20年 | 19.6695 | 24.586875 | 26.3655 |
25年 | 28.0395 | 40.80375 | 40.80375 |
30年 | 34.7355 | 40.80375 | 40.80375 |
35年 | 39.7575 | 47.709 | 47.709 |
参照 独立行政法人国立病院機構職員退職手当規程│別表第1
調剤薬局やドラッグストアなどの民間企業においても、同様の仕組みが取り入れられているため、一般的に自己都合退職では退職金の額が少なくなることに注意が必要です。
注意点2.勤続3年未満では支給されないことも
就業規則や退職金規定を確認すると、以下のように企業独自の規定が記されていることがあります。
- ○○年以上勤務の場合に退職金を支給する
- 勤続○○年以上の正社員でなければ退職金は支給されない
- 職員として引き続き在職した期間が○○年未満の場合、退職手当は支給しない
一般的には、3年以上の勤務によって退職金が支給される企業が多く、調剤薬局やドラッグストア、病院においても同様であると考えられます。
3年未満で退職金を支給する職場もありますが、支給率や月額給与が低いため、金額にするとそこまで大きなものではありません。
参考までに、国立病院などはでは6月以上の在籍により、1年で0.5022か月、2年で1.0044か月の退職金が支給されます。
参照:独立行政法人国立病院機構職員退職手当規程│第3条1、別表第1
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注意点3.転職回数が多いと総支給額は少なくなる
退職金はもともと、終身雇用制を基調とした日本において、永年勤続を奨励する意味をもつ制度でもありました。
勤続年数が長いほど、そして職能が高いほど、勤続年数当たりの単価が高額になることが一般的です。
30年間の有職期間を考えた場合でも、30年を同じ企業ではたらくのと、5年ごとに転職した場合では、退職金の総支給額は大きく異なります。
退職金の支給額を上げたい場合には、退職金制度の整っている企業で、なるべく長期間はたらくことが望ましいと考えられます。
注意点4.退職金がない職場もある
退職金制度は法律によって定められた制度ではないため、退職金制度を設けなくても違法ではありません。
高齢化社会の到来や国民医療費の抑制を背景に、薬剤師をとりまく環境は悪化しており、薬局などの医療機関の利益は年々下がりつつあります。
これまでのように長く働いたとしても、支払われる退職金は頭打ちとなり、年々減っている傾向にあります。
そもそも退職金制度がないという職場もあるので、転職をおこなう際には注意するようにしましょう。
薬剤師の退職金をアップさせるための4つの方法とは?
前項では、退職金における注意点を解説していきました。
では退職金の額をアップさせるためには、どのような方法があるのでしょうか。
1. 不必要な転職は避け定年退職を目指す
ここまで解説した通り、退職金は勤続年数が長いほど、そして職能が高いほど、金額が大きくなります。
不必要な転職を避け、一つの企業で長期間はたらくことにより、総支給額をアップさせることが可能です。
また自己都合による退職と会社都合による退職では、会社都合による退職の方が給付率がよいため、定年退職を目指すことがオススメです。
2. 管理薬剤師などを目指して月額給与を上げる
退職金の算定方法は企業によってさまざまですが、多くの場合1か月分の基本給に勤続年数を加味し、さらに給付率を掛けて算出する方式が用いられています。
退職金 = 1か月の基本給 × 勤続年数 × 給付率
勤続年数を伸ばすことも大切ですが、1か月の基本給をアップさせることも、退職金の支給額をアップさせるために有効です。
3. 企業年金を活用する
退職金の支給額を増やす方法の一つに、「企業年金」を活用する方法があります。
職場が制度を取り入れている必要がありますが、確定拠出年金(DC)や中小企業退職金共済制度(中退共)などを活用することで、退職金を運用することが可能です。
運用益の非課税制度など、税制優遇も受けられることがあるため、運用が成功すれば退職金を効率的に増やすことができます。
4. 退職金制度が充実した職場に転職する
今の職場の退職金制度に不満がある場合には、退職金制度が充実した職場に転職することも検討するようにしましょう。
大手チェーン調剤や製薬企業、公務員などの職場においては、個人薬局や中小企業に比べて、退職金の額は大きくなりがちです。
しかし入社前から「退職金について」の質問をすることは、難しいという場合もありますね。
そんなときには、転職サイトのエージェントに退職金についてそれとなく聞いてもらうこともオススメです。
まとめ│まずは職場の退職金規定を確認しよう
この記事では、薬剤師の退職金の仕組みや平均相場について、解説していきました。
退職金は将来の生活を考える上で非常に重要であるため、まずは自身の職場の退職金規定を確認することがオススメです。
その一方で、退職金の額だけに着目するのではなく、有職期間の年収や福利厚生まで含めて、トータルで考えることも必要です。
退職金制度をしっかりと理解して、効率的に将来の設計をおこなうようにしましょう。
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