ほとんどの処方せんは医師が記載した通り、とくに何かを訂正することなく調剤されます。しかし場合によっては、疑義照会をする必要があるケースもあるでしょう。
めったにない疑義照会だからこそ「医師への伝え方が分からない」「どうやってコミュニケーションを取るべきか不安」と感じている薬剤師も多いものです。
そこで今回は、医師に不快感を与えない上手な疑義照会の仕方をご紹介します。これを参考に疑義照会を実践するだけで、医師とのコミュニケーションにも自信をもてるようになります。
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この記事の目次
疑義照会の重要性!当たり前の治療を守るために薬剤師がすべきこと
疑義照会は、患者さんからはとても見えにくい業務内容です。もしかしたら疑義照会という言葉すら知らない患者さんもいるかもしれません。しかし薬剤師にとって、疑義照会は大切な業務の1つです。疑義照会を怠れば患者さんの命に関わることだってあります。
ではこの疑義照会によって、薬剤師が何を確認しているのか、また疑義照会漏れによって実際にどのような医療事故が起きたのかを見てみましょう。
薬剤師が処方せんを見て確認していること
疑義照会は大きく「形式的疑義照会」と「薬学的疑義照会」の2つに分けられます。
- 形式的疑義照会
処方せんの記載内容に不備がないかを確認すること - 薬学的疑義照会
相互作用や用法用量などに問題がないかを確認すること
実際に処方せんを確認する際に、「形式的疑義照会をしよう」とか「薬学的疑義照会をしよう」なんて思うことはなく、2つを合わせて単に疑義照会と呼ぶことがほとんどです。
薬剤師は処方せんを見て、主に以下のことを確認しています。
- 用法用量や規格など、必要な記載事項が記入されているか
- 投与日数制限を超えていないか
- 用法用量に誤りがないか
- 患者さんに合わないお薬はないか
- 相互作用がないか
この他に処方せんがコピーされたものでないか、期限切れではないか、患者さんが自分で処方せんに医薬品名を書き足していないかどうかも確認します。
疑義照会漏れによって防げた医療ミスの例
患者さんからはあまり注目されていない疑義照会ですが、この疑義照会によって医療ミスを防げた事例が過去にいくつもあります。疑義照会によって防ぐことができた医療ミスをご紹介しましょう。
排尿困難がある患者に、ユリーフ錠4mg 2錠分2朝夕食後21日分が処方された。患者は過去に同様の症状で今回と同じ医療機関の受診歴があり、薬局の記録に「ユリーフ錠の服用で立ちくらみの副作用が発生し中止した」と記載があった。
処方医に疑義照会を行ったところ、ナフトピジルOD錠75mg「KN」1錠分1夕食後に変更となった。
参考:疑義照会に関する事例
上記の例は、危うく前回の処方で副作用が出たお薬が、再び患者さんの手に渡ってしまいそうになったものです。もしそのまま処方されていたら患者さんも「なんで副作用が出たお薬がまた処方されるのか」と思うことでしょう。
実は処方内容が変更になったことを、医師側が記録し忘れていたために再び同じ処方が出てしまうこともあります。
薬剤師が疑義照会のときに感じる気まずさ
疑義照会は患者さんを守るためにとても重要なものです。しかし「疑義照会ってとても気まずい」と感じている薬剤師は少なくありません。私も調剤をしている途中で疑義照会が必要だとわかったときは「正直嫌だな…」と思ってしまうことがあります。
なぜこんなにも疑義照会が気まずいのかというと、疑義照会をすることによる医師からの反応が怖いからではないでしょうか。何を言われるかわからない不安があるため、気まずいと感じてしまうのですね。
実際にリクナビの調査によると、疑義照会のときに医師とうまくコミュニケーションを取れていると感じている薬剤師は半数程度にとどまっています。
参考:リクナビ薬剤師
忙しいからと雑に扱われる
医師は私たちが考えているよりも遥かに多忙だというのは、ほとんどの薬剤師がご存知だと思います。ひっきりなしに来る患者さんの対応でお昼休憩さえまともに取れない医師も珍しくありません。私が患者としてお世話になった医師も「今日も昼ごはん食べる暇がないな…」とボヤいていたことがあります。
忙しいが故に、疑義照会の電話をしても「そのままで」ブチッ…とか「忙しいからまた後でかけなおします」とかのように、雑に扱われてしまうことがあるのです。しかもかけなおしますと言われたのに何十分もかかってこないことだってあります。
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そんなこともわからないのか!と怒られる
私の上司にあたる薬剤師の経験談を1つお話ししましょう。患者さんは「咳が出る」と訴えているのに処方されているお薬は胃酸分泌を抑えるお薬(PPI)。咳なのになぜ胃酸を止めるお薬?と疑問に思った薬剤師は疑義照会をします。
すると医師はなぜかすごい勢いで怒り出してしまいました。「なんでそんなことで電話してくるんだ!逆流性食道炎だよ!」と言葉を投げた後、すぐに電話を切られてしまったそうです。
逆流性食道炎によって起きた咳の症状を抑えるためにPPIが処方されていたんですね。このようにこちらの知識不足や思考不足によって医師に怒られてしまうこともあります。
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薬剤師が口を出すなと注意される
残念ながら、薬剤師の意見に聞く耳を持たない医師もいます。
疑義照会されると、自分が出した処方せん内容にケチをつけられているように感じてしまうのもわかりますが、中には「薬剤師の分際で医師に口出しするな」と声を荒げる医師もいるものです。
薬剤師辛いあるある!職場ごとに特有のストレス・辞めたいと思う瞬間をまとめてみました。アナタの「ツラい」を、少しでも受け止めます…
医師が薬剤師に言われて不快になる言葉
疑義照会をしたときに医師がイライラしているのは、もしかしたら「医師が不快に思う言葉」を使っているからかもしれません。
「○○に変更してください」
これは絶対に避けたい疑義照会の仕方です。
突然「〇〇さんの処方についてですが、○○錠を500mgから250mgに変更してください」と言われて不快に思わない医師はいないでしょう。
なぜ処方変更が必要なのか理由すら伝えられずに「変更してください」では医師だって素直に「わかりました」とは言えません。
「○○が500mgで処方されていますが、○○さんは腎機能が低下しているので~…」と必ず理由を添えましょう。
また「○○が間違っているのですが」と間違いを断定するかのような疑義照会の仕方もNGです。本当に内容が間違っていたとしても、突然「間違っているので」と言われたら嫌な気持ちになってしまいます。
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上手な疑義照会の仕方・手順
疑義照会がなぜ気まずいのかを上でお話しましたが、これだけ見ているとどうしても医師が悪者のように見えてしまいますね。しかしそうではありません。疑義照会をする薬剤師側の態度が医師に不快な思いをさせていることだってあるのです。
お互いに気持ちよくコミュニケーションをとるために、疑義照会をする上で最低限必要なことを押さえておきましょう。
疑義照会の前に伝えるべきことを頭の中で整理しておく
疑義照会の電話をかけてから、何を伝えるかあれこれ考えるのは止めましょう。
伝えるべきことが伝わらない上に、必要以上に医師の時間を奪ってしまいます。あらかじめ聞きたいことをメモしておくなど対応をしてから電話しましょう。
自分よりベテランの薬剤師に1度尋ねてみる
処方箋には医師のクセが出ます。また医療機関と薬局とで決まりごとを作っている場合もありますので、まだ処方箋に疑問点があった場合は、疑義照会する前に自分よりも経験の長い薬剤師に聞いてみるのもオススメです。
もしかしたら疑義照会しなくてもよい内容かもしれません。
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挨拶をきちんとする
「お世話になっております」
「お忙しいところ申し訳ありません」
など、必ず疑義の内容に入る前にワンクッションおきましょう。いきなり「〇〇さんの処方せんについてですが~」と言われて気分のよい医師はいません。
疑義内容に入る前に挨拶をし、さらに忙しいときにかけてしまって申し訳ないという気持ちを伝えましょう。
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答えをあらかじめ用意しておく
たとえば併用禁忌の薬が処方されていたとします。「この薬は○○の理由により併用禁忌なのですが…」と伝えると、「代わりに使える薬って何がありますか?」と医師から質問を受けることもあるでしょう。
このとき、とっさに答えられず詰まってしまうと「薬剤師なのに知らないの?」と信頼性を失ってしまうことになりかねません。
併用禁忌があったのなら併用できる薬を、用量の記載がなかったのなら規格をすぐに答えられるようにしてから疑義照会をすることが鉄則です。
持論を伝える前に、なぜこの投与量なのか理由を尋ねる
「腎機能が低下している患者さんなので、○○の規格を○mgから○mgに変更お願いします」と突然持論を展開してしまうのはよくありません。もしかしたら医師があえてその規格で処方している可能性もあるからです。
医師の考えのもと処方されているのに、いきなり上のように腎機能が低下しているからと言われたら嫌な気持ちになります。
持論を伝える前に「腎機能が低下しているようなのですが、この患者さんに○○が○mg処方されているのには何か理由がございますか?」と処方意図について問うような質問をしましょう。
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最後に必ずお礼をいう
何事もやってもらって当たり前と思ってはいけません。疑義照会に対応してもらったら必ず「お忙しいところお時間を割いていただきありがとうございました」と必ずお礼を伝えましょう。
相手が医師だからではなく、お礼を伝えることは人として当たり前のことです。自分のために時間を割いてくれたことに感謝する気持ちを伝えましょう。
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アンサングシンデレラから学べること
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主人公の葵みどりがどのように医師や患者さんと向き合っていくのか、見どころ満載の漫画ですよ。今話題のこの一冊をあなたも読んでみませんか?
疑義照会をしたときに書くべき記載事項
もしも疑義照会をした場合は、処方が変更になってもならなくても処方せんと調剤録に疑義照会について記録しておく必要があります。記録する内容は以下の通りです。
- 日付、時間
- 照会内容
- 回答内容
- 相手医師の名前
- 担当薬剤師の名前
疑義照会をした場合は「○月○日○時にTellにて○○についてお問い合わせ。○○→○○に変更」といった具合に日時、時間、問い合わせ内容と問い合わせた結果を記載します。
疑義照会についての記録は黒字で書く薬局と赤字で書く薬局がありますので、使うボールペンの色は職場のルールに合わせてください。
処方が変更にならなかった場合も必ず「○○の理由により処方変更なし」と記録しておきましょう。
ここで記録を忘れてしまうと、後日また同じ患者さんが来局された際にまた同じ内容で医師に疑義照会をしてしまう可能性が出てしまうので要注意です。医師の時間も薬剤師の時間も奪ってしまうので、必ず疑義照会をしたら記録します。
国内では1日どれくらいの枚数が疑義照会されている?
これを読んでいるあなたは、日本国内で1日に何枚くらい疑義照会がされているかご存知ですか?多くの方が1日に1回も疑義照会はしないかと思いますが、はたして何枚なのでしょうか。
日本で1日に処方される枚数
厚生労働省が発表した「平成29年度 処方せん発行元別・制度別分析」によると、1年間で処方されている処方せんは約8億枚。1日あたり約220万枚もの処方せんが発行されています。
この数字は話題の薬剤師漫画、「アンサングシンデレラ」にも出てきましたね。
発行された処方箋のうち、疑義照会になる確率は約3%
平均して毎日220万枚もの処方せんが受付されているわけですが、このうちどれくらいの割合で疑義照会になると思いますか?答えは約3%です。つまり220枚の処方せんのうち、約7万枚の処方せんで疑義照会されていることになります。
病院や調剤薬局で働いていても、疑義照会をする機会があまり多くないことから、この7万枚という数字が意外と多いように感じられますね。
疑義照会された処方箋のうち約70%が処方変更されている
約220万枚の処方せんのうち、毎日約7万枚の処方せんが疑義照会されています。疑義照会されたこの7万枚の処方せんのうち約70%は、処方が変更になります。
疑義が見つかれば多くの場合で処方が変更になると言って間違いないですね。薬剤師はこのわずかな確率で起こる処方せんの疑義を見逃さずに調剤しているということになります。
もっとも多い疑義照会の内容は?
平成27年度全国薬局疑義照会調査報告書によると、疑義照会された処方せんのうち、約78%が薬学的疑義照会によるものです。
つまりほとんどの疑義照会において、処方せんの記載不備ではなく相互作用などの観点から疑義照会されていることがわかります。またこちらの報告書から疑義照会される割合や、疑義照会された後に処方変更になる割合も確認できますね。
岐阜薬科大学付属薬局で行った疑義照会内容の分析によると、疑義照会の内容は以下のような結果となりました。
- 用法・用量についての疑義:153件(27.2%)
- 処方内容と患者認識との相違:88件(15.7%)
- 保険適応上の問題:80件(14.2%)
- 調剤上の問い合わせ:73件(13.0%)
- 患者の変更希望:69件(12.3%)
もっとも多いのが用法や用量についての疑義です。
具体的には頓服薬はいつ飲めばいいのか、用量が通常より多い、前回までの処方内容と用法用量が異なるが大丈夫なのか、といった疑義が多く挙がっています。
まとめ
疑義照会がされているのは、1日に受付される処方せんのうち、わずか3%程度。そのうち70%が処方変更されています。
これを多いと見るか少ないと見るかはあなた次第です。しかしこうやって薬剤師は、患者さんの目に見えないところで多くの方の安全を守っています。
疑義照会が気まずいと感じる薬剤師も多いですが、挨拶をしっかりする、いきなり持論を言わない、お礼をきちんというなどに気をつけることで医師を怒らせてしまうことを減らせるでしょう。
今後も医師と円滑なコミュニケーションをとりながら患者さんの安全を守り、よりよい医療を提供していきましょう。