高齢者の割合が増えていくにつれ、薬剤師に求められる仕事も多くなってきました。それと同時に予防医学の重要性も注目されています。病気の予防手段の1つとして挙げられるのが漢方薬です。
この漢方薬の知識を持つ漢方薬剤師が今後増えていくのではと考えられます。今回はこれから需要が高まっていくであろう漢方薬剤師になるための方法や、漢方薬剤師になるメリットなどをお伝えしていきます。
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この記事の目次
漢方薬局には3つの種類がある
「漢方薬局」と聞いてどのような場所を思い浮かべますか?実は厳密に漢方薬局の定義は決められていないため、ひとくちに漢方薬局と言ってもいくつか種類があります。
漢方相談を行う漢方薬専門の薬局
漢方薬が入った薬棚がずらっと並べられ、珍しい生薬が視界にたくさん入ってくるような漢方専門の薬局は、まさに「漢方薬局」としてイメージする方が多いでしょう。
店内にちょっと入りづらい独特の雰囲気が特徴です。漢方専門の薬局では一般の処方箋の取扱はしていません。
漢方相談にのり、相談内容に合わせて薬剤師が生薬をブレンドしてお渡しするスタイルが主流です。
漢方薬の他に相談内容に応じてサプリメントの提案を行う漢方薬局もありますね。
入りづらいイメージのある漢方薬局ですが、最近ではもっと漢方薬を身近に感じてもらおうと、明るくオシャレな雰囲気作りをしている漢方薬局もありますよ。
参考:薬日本堂株式会社
上の写真にある日本堂の漢方ブティックは、これまでの漢方薬局とは思えない内装になっています。
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漢方薬も取り扱っている調剤薬局
一見すると通常の調剤薬局と変わりはないものの、漢方薬の処方せんを多く取り扱っている薬局を漢方薬局と呼ぶこともあります。
漢方専門の薬局とは違い、扱うのは既成品の漢方薬です。個包装になっているあの漢方薬ですね。
そのため自ら患者さんの話を聞いて漢方薬を選んで…という過程は残念ながら経験することができません。
ただしいきなり専門性の高そうな漢方薬局で働くのは不安という方でも働きやすいのが特徴です。
漢方薬を扱うドラッグストア
ドラッグストアでも店舗によっては驚くほど多くの漢方薬を扱っているところがあります。
これまでに見たドラッグストアの中には50種類以上も扱っている店舗もありました。
漢方薬以外の市販薬で対応がなかなか難しい方や、なんとなく調子が悪い方も多く相談に来られますので、ドラッグストアでも漢方と深く関わりながら働くことができます。
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漢方薬剤師の仕事内容・働き方
漢方薬剤師の働き方としては、大きく3つにわけられるでしょう。1つは漢方薬の取り扱いを専門とした漢方薬局で働くこと。2つめは通常の薬剤師と同じように調剤薬局や病院で働くという方法です。
そして3つめは漢方薬を多く取り扱うドラッグストアで働く方法があげられます。
漢方薬局で働く
街中にふと現れる、あの厳かな雰囲気が漂う漢方薬局がもっとも漢方の知識を活かせる職場でしょう。
仕事内容は以下の通りです。
- 漢方相談にのる(カウンセリング)
- 漢方薬の選定
- 調剤
- 服薬指導
- 漢方薬の宅配・発送
自分で考えて自分で調剤する経験は、他ではなかなかできないでしょう。時には1人の患者さんの症状をヒアリングするのに、1時間以上もかけることがあります。一人ひとりと向き合いながら適切な漢方を選んでいくとても専門性の高い仕事です。
ネットで漢方薬の注文を受け付けている薬局だと、梱包作業や発送作業なども業内容に加わります。
調剤薬局や病院で働く
漢方薬剤師としての知識を活かしながら、調剤薬局や病院などで働く方法もあります。薬剤師とはいえ漢方薬に関しては、知識がある方とない方の差がとても大きいものです。
- 処方箋の調剤
- 服薬指導
業務内容は上記の通り、普通の調剤薬局とあまり変わりません。唯一違うことといえば、漢方薬を扱う量が多いことでしょう。
漢方薬を多く扱う薬局や病院で勤務することで、どういう目的で漢方薬が処方されているのかを日々学ぶことができます。
医師がどういった目的で処方しているのかわかりづらい漢方処方もたまにありますよね。業務を続けるうちに漢方薬の処方パターンが見えてきますよ。
処方されている漢方薬から患者さんの状態を読むこともできるでしょう。
ドラッグストアで働く
ドラッグストアでの仕事内容は、ずばり相談にのることです。とはいえ漢方専門の薬局のように1時間も2時間もかけて相談にのるわけではありません。
お客様の訴えを聞いて、合う漢方薬があるかどうかを判断し提案します。
ドラッグストアでは健康食品やサプリメントもあるので、漢方薬だけでなくあらゆる角度からお客様に合うものを提案することが大切です。
漢方薬剤師になるには資格は必要?
ではどうすれば漢方薬剤師になれるのでしょうか。実は「漢方薬剤師」という資格はありません。私たちが漢方に詳しい薬剤師のことを漢方薬剤師と呼んでいるだけなのです。そのため漢方薬剤師には、明確な資格が存在しません。
ではどうすれば漢方薬剤師になれるのか、答えは簡単で漢方に関する専門知識を身につけていくことで漢方薬剤師を名乗れるようになります。ここでは漢方の知識をつける、一般的な方法をいくつかご紹介します。
漢方薬・生薬認定薬剤師
もっともメジャーで信頼性と知名度が高い資格が漢方薬・生薬認定薬剤師でしょう。漢方薬に精通した薬剤師を養成しようと、日本生薬学会と日本薬剤師研修センターの連名で認定するようになったのが始まりです。
漢方薬・生薬認定薬剤師証・認定薬剤師章(バッジ) – 日本薬剤師検修センター
認定薬剤師の一種なのでこれを取っていれば漢方の知識を備えていると各方向にアピールできます。
認定薬剤師なのでさまざまな研修に参加し、単位を集めなければなりません。漢方薬・生薬認定薬剤師を取得に必要な流れは主に以下のようになります。
漢方薬・生薬認定薬剤師はもちろん国家資格ではなく認定資格です。認定期間は3年で、期間が切れる前に更新手続きを行わなければいけません。
- 3年間で30単位以上を取得。ただし必修研修で15単位取り、さらに毎年5単位以上取得。
- 3年間で漢方薬・生薬研修会を再受講する(上限は20単位)。これに他の漢方薬・生薬に関連する研修を合わせて30単位以上取得。ただし再受講および必須研修による単位を合わせて12単位取得が必要。
詰め込み学習ではダメで、定期的に学習を動機づける仕組みになっているところが素晴らしい配慮ですね。
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研修やセミナー、勉強会に参加する
もっとも気軽に漢方薬の勉強をしたいのなら、研修やセミナーに参加するのもよいでしょう。病院や漢方薬局、漢方の製薬メーカーが勉強会を開くことがありますので、それに参加して知識を習得していきます。
有名所ですと、以下の企業が定期的に勉強会を開催していますので、ぜひチェックしてみくてください。
小太郎漢方製薬の勉強会は1,000~2,000円ほどで受けられるものが多いので、ちょっと気になる方でも受けやすいですね。
自宅で講習を受けたいと考えている方は、eラーニングを活用してみるとよいでしょう。以下のサイトからeラーニングを受講できます。
漢方を多く扱う薬局で勉強する
漢方薬を得意とする病院や、漢方薬局で働くことで実践的な漢方薬の知識を学んでいくことも可能です。漢方の知識がないと漢方薬局では働きにくいような気もしますが、働き始めてから勉強をする方も多くいます。
自宅で漢方薬の勉強をする
まずは空き時間を使って勉強したいなという方には、自宅で書籍を使って勉強を進めていくのもオススメです。
[amazonjs asin=”4840746230″ locale=”JP” title=”生薬の働きから読み解く 図解 漢方処方のトリセツ”] 漢方薬の基本的な考え方である気血水、邪、陰陽と虚実などの説明から詳しく書かれているので漢方初心者の方でも基礎から学べます。こんな漢方薬があったんだと思わずうなってしまうようなものからメジャーなものまで収載されているので、これ1冊があればどんな漢方薬でも学べるでしょう。
一つひとつの処方に対して服薬指導のポイントや処方のしくみ、処方意図が載っているため漢方薬剤師を目指していない方でも持っておきたい本です。
[amazonjs asin=”4758117322″ locale=”JP” title=”Dr.浅岡の本当にわかる漢方薬〜日常診療にどう活かすか?漢方薬の特徴,理解の仕方から実践まで解説. さまざまな疑問の答えがみつかる!”] こちらはどちらかというと、メジャーどころの漢方薬に絞って扱っている本です。生薬単位で効果を学んでいくのに適しています。何のためにこの生薬が入っているのか、漢方薬をどう使い分けるのかを学ぶのにオススメです。薬局薬剤師
漢方薬剤師になるメリット
漢方薬の知識があることで、服薬指導にも自信がつき漢方薬局でも活躍できるようになります。ただし漢方薬剤師になるメリットはこれだけではありません。
予防医学に貢献できる
医療費の高騰や高齢者の増加により、病気になる前にいかに防げるか、つまり未病の段階でどれだけ抑えられるかが注目されるようになってきました。
西洋薬にはできない体質改善が漢方薬ではできるため、予防医学に大きく貢献できることが期待されます。これから漢方薬剤師の需要は高まっていくでしょう。
正しい知識を広められる
ネット上には、残念ながら正しくない情報も多くはびこっています。間違った漢方薬の知識が多くの方に拡散されてしまっているのが現状です。
漢方薬剤師になれば、漢方に対する正しい知識が習得できますので服薬指導やSNSなどを通して正しい情報を提供できるようになります。誤った知識を広げないよう活動することが、患者さんの健康を守ることにもつながるでしょう。
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患者さんと近い距離で関われる
普通の調剤薬局の場合、患者さんが症状について詳しく相談する相手は医師です。しかし漢方薬局なら患者さんは薬剤師に直接相談してくれます。しかも何十分も何時間もかけて対応をするため、確実に患者さんとの距離は近くなります。
薬剤師が悩みを聞いて薬剤師が漢方薬を決定し、この漢方薬を通じて患者さんの体調に変化が出る。これほどにまで患者さんと近い距離で関われる仕事はなかなかありません。
漢方薬剤師になるデメリット
漢方の知識を勉強しながら、患者さんの健康を守れる漢方薬剤師。しかし漢方薬剤師としての働き方にはデメリットもあります。
高い年収は期待できない
実際に求人を探してみるとわかりますが、多くは年収400万円ほどのものばかりです。薬剤師の平均年収が530万円ほどあることを考えると、100万円近くも下がってしまいます。
働きはじめてからもなかなか昇級できないことが多く、高年収を目指す薬剤師には向きません。
漢方には詳しくなれるけど処方箋医薬品には疎くなりがち
漢方薬を専門とした薬局では、一般的な調剤をすることがありません。そのため漢方薬局で長く勤めれば勤めるほど処方箋のお薬の知識が浅くなってしまいます。
そうすると漢方薬局から普通の調剤薬局へいざ転職しようとしたときに、「しばらく調剤をしていなかったけど大丈夫かな?」と不安になってしまうのです。
漢方薬局に長くいるほど調剤とは遠ざかってしまうため、転職に響いてしまうこともあるでしょう。
求人が少ないので転職が難しい
調剤薬局やドラッグストアの求人は検索すると何万件、何千件とヒットします。一方で漢方薬局の求人は数十件しかヒットしません。
試しにマイナビ薬剤師で「漢方」と検索してみましたが、わずか18件しかヒットしませんでした。(2020年11月時点)
全国を対象に検索してこの件数なので、漢方薬剤師として働きたいと思ってもマッチする求人がなかなか見つからない可能性は高いでしょう。
漢方薬局に転職する方法は?実際の求人を見てみよう
漢方薬局に転職してみたいけど、あまり求人を見かけることがありません。どうすれば漢方薬局に転職できるでしょうか。
また漢方薬局の求人にはどのような特徴があるのでしょうか。
漢方薬局の求人
漢方薬剤師、とくに漢方を専門的に扱う薬局の求人は、通常の調剤薬局と比べると求人数が少なく、年収も少ない傾向にあります。
マイナビ薬剤師で「漢方」と検索したところヒットしたのは18件のみです。
また専門的な知識が必要とされるものの、年収400万円前後の求人がほとんどとなっています。
参考:マイナビ薬剤師 2020年11月時点
年収は350万円から、高くても450万円程度なのでやはり高年収を目指すのは難しそうです。
参考:マイナビ薬剤師 2020年11月時点
ほとんどの求人の年収が高くても450万円程度なのに対し、こちらは最高650万円まで可能です。ドラッグストアなので年収が高めになっているのだと思われます。
「漢方薬剤師にはなりたいけどお給料が…」という方は、こういった求人を狙うと良いですね。
「漢方薬剤師」とは少しズレますが、小太郎漢方製薬株式会社のように漢方薬をメインで扱う企業でMRとして働く道もあります。
参考:2021年度 採用情報 営業職 MR(医薬情報担当者)
「漢方に興味を持ち、社内研修にとどまらず、自ら進んで漢方知識を習得しようという意欲のある方を希望」とのことなので、漢方の知識を学びたい方にぴったりではないでしょうか。
漢方未経験でもチャレンジして大丈夫!
「漢方の知識に自信がない」
「漢方薬局は初めてだけど、やっていけるか不安」
このような方でも安心してください。漢方薬剤師は未経験でも問題なくチャレンジできます。
もちろん患者さんの対応をする以上、勉強は必要になりますが、働きながらより知識を深めていくという認識で大丈夫です。
ただし漢方の資格をもっていたほうが有利なのは間違いないので、漢方薬剤師への転職を考えている方は計画的に資格取得に励んでおくと安心できるでしょう。
漢方薬局へ転職する方法
そもそも漢方薬局自体の数があまり多くないため、求人数も少ない傾向にあります。
近くの漢方薬局へ足を運んでみるのもよいですが、転職サイトに登録して求人を探すのがもっとも効率がよいでしょう。
担当者へ漢方薬局へ転職したいことを伝えれば、新しい求人やぴったりの求人があったときに紹介してくれます。
さらには年収の交渉をしてくれることもあるので、漢方薬局の年収に不満がある方にも転職サイトの使用がオススメです。
薬キャリだと求人を検索するときのチェック項目に「漢方」がありますので、簡単に漢方薬局の求人を探せます。
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まとめ
漢方薬剤師という資格はないものの、漢方薬・生薬認定薬剤師の資格を取ったり勉強会に参加したりすることで、専門的な漢方の知識を習得できます。
高齢者の増加や医療費の圧迫に対応できるよう、これからは予防医学が注目されていく時代です。漢方薬を使って未病の段階で症状を抑えられるようになれば、予防医学に大きく貢献することができます。
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