調剤薬局において「医療用医薬品」を患者さまに提供するためには、医師の処方せんが必要不可欠です。
しかし、患者さまの中には「前と同じ薬を出してほしい」と、直接薬局を訪れる方もみられます。
ほとんどの調剤薬局では「処方せんが無いと薬は出せません」と断られてしまいますが、「零売薬局」を利用することで、一部の医療用医薬品を直接購入することが可能です。
この記事では、零売薬局の概要やメリット、問題点、今後について解説していきます。
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そもそも「零売(れいばい)薬局」とは?
「零売薬局」という言葉は、医薬品の専門家である薬剤師の間でも、それほど知られていません。
ここでは、零売薬局の概要について解説していきます。
零売薬局とは?
零売とは、医師の発行する処方せん無しで医療用医薬品を購入することのできる仕組みのことをあらわしています。
零売という販売方式は以前から存在していましたが、実際にはさまざまな事情(後述)から、保険薬局やドラッグストアにおいて零売をおこなう施設はほとんどありません。
しかし近年では、国民医療費増大の問題や利用者からの要請を背景に、零売を専門にした「零売薬局」が増えつつあります。
零売薬局では、一般的な保険調剤薬局のように処方せん応需やOTC医薬品の販売をすることはなく、医療用医薬品を顧客に対して直接販売します。
欲しい医薬品が決まっている方や、医療機関にかかる時間のない方にとっては、オススメの販売方式といえますね。
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すべての医薬品が零売の対象ではない
医療用医薬品を直接購入することのできる「零売」について、すべての医療用医薬品について零売が認められているわけではありません。
薬剤師が取り扱う医療用医薬品は、15,000種類程度といわれています。医師の発行する処方せんの要・不要により、さらに「処方せん医薬品」と「非処方せん医薬品」に分類されています。
処方せん医薬品は法律により零売が認められていないため、非処方せん医薬品に限り、零売が可能となります。
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零売薬局での販売ルール
非処方せん医薬品だからといって、何でもかんでも販売できるわけではありません。零売する場合には、次のことに従って販売することがルールとなります。
- 販売個数は必要最低限に抑える
- 販売する医薬品は備蓄倉庫で保管する
- 販売した場合は品目や販売日、数量などを記録する
- 薬歴管理を行う
- 薬剤師が対面で販売を行う
病院に行かずに医療用医薬品が手に入ることは、便利でもある反面、重大な疾患に気づけなくなるというリスクもあります。そのため販売個数は最低限に抑えなければなりません。
販売を行えるのは薬剤師のみで、販売した場合は薬歴や販売個数などの記録も必要です。
零売薬局の例
少し前まではほとんど零売薬局の店舗はありませんでしたが、近頃は少しずつ増えてきました。
ここでは実際に零売薬局として活動している薬局をご紹介します。
セルフケア薬局
参考:セルフケア薬局
実際に零売をおこなう薬局として、SD C株式会社の運営する「セルフケア薬局」があります。
こちらの薬局は、2016年に東京23区初となる零売薬局「池袋セルフメディケーション(現:セルフケア薬局 池袋店)」を開局し、話題となりました。
管理のシステム化やマニュアル構築、業務手順の徹底、スタッフの教育、管轄保健所との協議などをおこなうことにより、医療用医薬品の販売を可能にしています。
2019年8月31日には2号店である「セルフケア薬局 雷門店」がオープンしたことで、日本で初めてとなる零売薬局チェーンとなりました。
2020年6月時点では、全国に7店舗がオープンしています。
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健康日本堂調剤薬局
参考:健康日本堂調剤薬局
健康日本堂調剤薬局は東京の赤坂に店舗をもつ薬局です。「速薬」という専用のアプリをダウンロードすることで、アプリからでも薬の相談ができるように工夫がされています。
アプリを使わないでも薬局で直接相談することもできますが、アプリ上で決済まで進めることができるので、活用すると便利そうですね。
どのような薬を処方せんなしで買えるのかが写真つきで掲載されているので、いつも使っているお薬を見つけやすいのも特徴だと言えます。
くすりやカホン
参考:くすりやカホン
都心に店舗を構える薬局が多い中、くすりやカホンは北海道の札幌市で営業している零売薬局です。
北海道初の零売薬局として、平成24年に開業されました。
零売だけでなく、漢方薬の無料相談も行っているそうです。くすりやカホンを開業した薬剤師がもともとは漢方薬局に勤めていたこともあり、その経験を活かして漢方相談も行っています。
零売のメリット
零売にはさまざまなメリットがあると考えられています。
時間とお金を節約できる
医薬品を直接購入することのできる零売では、病院やクリニックを受診する必要がありません。
医師の診察や薬局での調剤を待つ必要もないので、時間を大幅に節約することができることから、忙しい方にとって喜ばれています。
また、病院やクリニックの受診代や薬局における調剤料が不要であることもポイントです。
公的保険を利用することはできませんが、医療用医薬品はOTC医薬品に比べて安価であるため、医療費を節約することにもつながります。
希望する医薬品を購入できる
一般的な保険診療では、交付される医薬品は診察をおこなう医師によって決定されます。
希望する医薬品があったとしても、保険適応上の問題や投与制限により、処方できないという場合も少なくありません。
専門外の医薬品は処方しないという医師も多く、医師選びに苦労するということもありますね。
零売は、希望する医薬品を選んで購入できるため、欲しい薬が決まっている方にとってはおおすすめの販売方法です。
薬の専門家である薬剤師に相談できる
医療機関を受診せずに医薬品を購入する場合には、ドラッグストアや個人輸入を利用することが一般的です。
ドラッグストアでは、登録販売者や薬剤師に対して薬や疾病の相談をおこなうことが可能ですが、購入できる医薬品はOTC医薬品に限られます。
個人輸入では、医療用医薬品を含むさまざまな医薬品を購入することが可能ですが、自分自身の判断で医薬品を選択しなくてはなりません。
零売薬局では、医薬品の専門家である薬剤師に相談した上で、医療用医薬品を購入できるため、医薬品の安心安全な使用につながることが期待されています。
零売の問題点は?
さまざまなメリットのある零売という仕組みですが、問題点もあります。
副作用や相互作用など、安全性に問題がある
零売における最大の問題点として、安全性の確保が難しいことが挙げられます。
医療用医薬品は作用や副作用が強いだけでなく、併用の禁止されている症例や薬剤が多いことが知られています。
いくら薬剤師のアドバイスの下とはいえ、医師の診察を受けずに医療用医薬品を使用し続けることは、大きなリスクが生じてしまいます。
また重大な副作用が発生してしまった際の責任の所在や、「医薬品副作用被害救済制度」の補償が受けられるかどうかもポイントです。
零売によって入手した医薬品によって、健康被害を受けたり障害が残ったりした場合には、医療手当や障害年金などの給付が受けられない可能性もあるので、注意が必要です。
薬物治療をおこなっている場合には問題となることも
持病のある方など、医療機関を定期的に受診して薬物治療をおこなっている方は、かかりつけ医によって服用薬剤の管理がおこなわれています。
そうした中で、零売によって医療用医薬品を購入してしまうと、医師の治療計画に影響をおよぼしてしまいかねません。
おくすり手帳や薬剤情報書を利用して、零売で購入した医薬品を伝えることもできますが、零売という販売方法はまだまだ主流とはいえないため、かかりつけ医の理解が得られない可能性が高いのが現状です。
零売をおこなう店舗を見つけることが困難
前項では零売薬局の実際の例をご紹介しましたが、零売はまだまだ普及していない販売方法といえます。
現状では零売をおこなう薬局は数えるほどしかなく、地域によっては零売薬局を見つけることは困難といえるでしょう。
「セルフケア薬局」では、2022年までに都内で100店舗以上のチェーン展開および全国チェーン展開を目指すことが公表されているので、今後に注目です。
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零売薬局は今後どうなる?
ここまでは零売薬局の概要やメリット、問題点について解説していきました。
零売薬局は今後、どのようになっていくのでしょうか。
零売薬局チェーンの登場など、零売が広がる可能性が高い
零売という販売方法が認知されるようになり、零売を専門におこなう薬局は増えつつあります。
日本ではじめて零売薬局チェーンが誕生したことが話題となりましたが、ここで得られたノウハウを生かし、今後もさまざまな地方にも進出していくことが予想されます。
また超高齢社会をむかえる本邦において、医療費抑制が急務とされる社会的背景から、「セルフメディケーション」が注目されるようになりました。
零売薬局を利用することで、高水準な医薬品を安価で購入することができるため、セルフメディケーションとも相性が良いといえるでしょう。
現時点では利益につながりにくい
一般的な保険調剤薬局では、近隣の医療機関から受け取る処方せんにより、ある程度の利益を見込むことが可能です。
しかし零売薬局は、処方せんを応需しないことが一般的であり、ドラッグストアのように食品や衛生用品を扱うことも困難であるため、医療用医薬品の販売のみで利益を上げなければなりません。
公的保険を使用できないことから、高額の売り上げが見込めないこともあり、薄利多売となってしまう恐れがあります。
また医療用医薬品は、管理が煩雑であるため、システムの運営費や人件費などのコストがかかることにも注意が必要です。
医療機関や医師・薬剤師との関係性が重要
零売薬局を普及させていくための課題の一つに、医療機関や医師・薬剤師との関係性があります。
多くの医療機関にとって、診療や調剤を介さずに医療用医薬品を販売することは、受診抑制につながる恐れがあるため、敬遠されがちです。
患者数や収益が減少することになってしまうと、病院や薬局からクレームを受けてしまう可能性があります。
また受診抑制による重大疾患の見落としや、副作用による被害が社会問題になってしまった場合には、零売という販売方法自体が否定されてしまいかねません。
まとめ
この記事では、零売薬局の概要やメリット、問題点、今後について解説していきました。
病院やクリニックなどの医療機関は混雑することが多く、冬場などは感染症に罹患するリスクも高まります。
医療用医薬品を直接購入したいと考える利用者は多く、零売という販売方法が今後普及する可能性は大いにあると考えられます。
あくまでも保険調剤が薬剤師の主な業務ではありますが、零売の正しい知識を身につけることも重要です。
この記事を参考にして、零売について情報収集してみてはいかがでしょうか。