2016年から始まった健康サポート薬局。高齢社会に対応できるように、調剤薬局が処方箋の薬を貰うだけでなく、気軽に健康相談をしたり、市販薬を買ったりできる場になれることを目指して作られた制度です。
しかしどの薬局でも健康サポート薬局になれるわけではありません。どうすれば認定を受けられるのか、健康サポート薬局になることでどのようなメリットやデメリットがあるのかをご説明していきます。
健康サポート薬局とは?期待されている役割
健康サポート薬局は、医薬品医療機器法施行規則により次のように定義されています。
患者が継続して利用するために必要な機能及び個人の主体的な健康の保持増進への取組を積極的に支援する機能を有する薬局
引用:健康サポート薬局 Q&A
多くの方は調剤薬局を「処方箋の薬を貰うところ」と認識しています。間違ってはいないのですが、「薬を貰うだけのところ」と思っている方も少なくありません。
病院に行って処方箋を貰わないと、薬局には入れないと思っている方が想像以上に多くいます。
しかし実際には、調剤薬局で働いている薬剤師は「健康で気になることがあればもっと相談してほしい」、「気軽に薬剤師へ相談できる場として活用してほしい」と思っているものです。
患者さんが薬局に持つイメージと、薬剤師が理想としている薬局のイメージには大きな乖離があります。この乖離を少しでも埋めて、高齢者が増えていく世の中を薬剤師も支えよう、というのが健康サポート薬局の役割です。
主に次のようなサポートを担っています。
- 要指導医薬品の供給や助言
- 健康相談の受付
- 受診勧奨
団塊世代の方が後期高齢者である75歳を迎え、約3人に1人が高齢者となる2025年問題も、もうすぐ目の前です。
参考:統計局ホームページ/日本の統計-48 国民医療費の推移
少し古いデータにはなりますが、医療費は右肩上がりでどんどん増えているのが現状です。薬局が患者さんの健康をトータルで守れる場所になれれば、むやみに病院を受診する方も減り、医療費も減らせるでしょう。
【2025年問題】高齢化が進む日本で薬剤師がはたすべき役割は?在宅医療・併設複合型の店舗増加・「健康の起点」となることがカギか
患者さんにはあまり認知されていないのが現実…
薬局がコンビニの数よりも多いことは有名でしょう。今の日本は、少し外を歩けば薬局がすぐ目に入る環境です。ちょっと風邪を引いたりケガをしたりするだけで病院に行く方が、もしも病院に行く前に薬局へ相談に来てくれたら…。
少しでも薬局を相談の場として活躍してくれる方が増えるようにと始まった健康サポート薬局ですが、驚くほどに認知度は低いものです。
なんと健康サポート薬局の認知度は、制度が始まってから2年経った2018年の時点で、わずか8.4%しかありません。10人いても1人が知っているかどうか程度なのです。
健康サポート薬局について、どう周知させていくかも今後の課題と言えそうですね。
ドラッグストアは健康サポート薬局のさきがけ?
ところで処方箋の薬も貰えて、OTC医薬品の相談もできるし気軽に健康相談ができる場所って、すでにあるような気がしませんか?そう、ドラッグストアです。
ドラッグストアでは「ちょっと咳が出るので薬がほしい」、「オススメのサポーターを教えてくれないかな」、「こういうお薬を探しているんだけど」といった相談を毎日、当たり前のように受けています。
調剤薬局と比べてもドラッグストアは豊富なOTC医薬品や健康食品、サプリメントを揃えているので、相談内容に合わせた商品の提案も行いやすいです。
営業時間も調剤薬局と比べれば長いですし、気軽に足を運ぶこともできます。何も購入されずに相談だけしに来られる方も多いですよ。薬局が目指している姿は、意外にもドラッグストアなのかもしれません。
詳しく薬剤師のアルバイト、平均時給は○○円!時給が高い求人の特徴とは?ドラッグストアは土日・夜間出れる有資格大学院生に人気のバイト
健康サポート薬局の取り組み
健康サポート薬局となった薬局で、実際にどのような取組が行われているのでしょうか。いくつか例を見てみましょう。
クオール薬局
もっと身近にクオール薬局を感じてもらうために、次のような取り組みが行われています。
- 無料で行える健康チェック
- 医療機関や医療関連施設の紹介
- 薬局での血液検査
- 健康フェアの開催
- OTC医薬品の販売
とくに薬局で血液検査を行っているのは面白いですね。コレステロールや血糖値の測定ができるそうです。
日本調剤
日本調剤でも健康サポート薬局として活躍している店舗があります。次のような取り組みを行っているとこのことです。
- 全店舗でOTC医薬品を取り扱う
- ICTを活用
- 健康チェックステーションを開設
ICTを活用したお薬手帳アプリをリリースすることで、服薬履歴や通院日などを管理できるシステムを作っています。東京大学と共同開発しているとのことで、今後の活用が楽しみです。
アイングループ
アイングループの薬局では、次のような取り組みが行われています。
- 健康相談
- 相談スペースの確保
- 医療機関や医療関連施設の紹介
- 休日の相談対応
- 健康相談イベントの開催
- OTC医薬品の販売
休日も相談に応じてくれるのは嬉しいですね。健康サポート薬局になるためには、かかりつけ薬局としての機能も必要なため、延長として相談に応じているのかもしれません。
健康サポート薬局になるには
すべての薬局がすぐ健康サポート薬局として活動できるわけではありません。そして健康サポート薬局になりたいと思っても、どうしても設備や人員の面でできない薬局もあるでしょう。
どうすれば健康サポート薬局になれるのか、詳しく見てみましょう。
健康サポート薬局になるための要件
健康サポート薬局は、厚生労働省により以下の要件を満たしていることがわかる書類を集めて提出するようにと定められています。
- かかりつけ薬局としての機能をはたしていること
- 地域と連携して活動できる体制が整っていること
- 健康サポート薬局のための研修を終えていること
- 個人情報に配慮した相談窓口を備えていること
- 薬局の内側と外側に健康サポート薬局である旨を表示すること
- 要指導医薬品等や介護用品等を扱っていること
- 開局時間
- 健康サポートの取り組みをしていること
このようにいろいろと要件があるため、健康サポート薬局の認定を受けたい場合は前もって段取りをしておかないと、申請できない事態になってしまいます。
かかりつけ薬局として機能する
健康サポート薬局になるためには、かかりつけ薬局として機能していることが必須です。機能とは具体的に以下の条件が提示されています。
- かかりつけ薬剤師選択のための業務運営体制
- 服薬情報の一元的・継続的把握の取組と薬剤服用歴への記載
- 懇切丁寧な服薬指導及び副作用等のフォローアップ
- お薬手帳の活用
- かかりつけ薬剤師・薬局の普及
- 24時間対応
- 在宅対応
- 疑義照会等
- 受診勧奨
- 医師以外の多職種との連携
かかりつけ薬剤師として、残薬の調整や副作用のモニタリングを行わなければなりません。またお薬手帳が複数冊ある場合は1つにまとめるなどのアクションも必要です。
地域と連携して活動できる体制を整える
地域と連携した体制とは主に以下の取り組みとなります。
- 一般用医薬品や健康維持に関する相談
- 受診勧奨
- 地域ケア会議や各種事業などに積極的に出席
- 薬剤師会や医師会などと連携して健康維持に貢献
薬局で健康相談を受けるのはもちろんのこと、状況に応じて受診勧奨しなければなりません。また健康維持につながる事業へ積極的に参加することも求められています。
健康サポート薬局のための研修を終える
厚生労働省によって定められている「常駐する薬剤師の資質に係る所定の研修」を30時間分、受講しなければなりません。
研修会AとBで8時間、eラーニングで22時間、合計30時間です。研修会AとBは各都道府県で開催される研修を受講します。
(2020年の開催予定研修はこちらから確認できます。)
eラーニングについては専用サイトがありますので、こちらに登録して受講しましょう。受講料は8,000円(税別)で、登録すれば2年間有効です。
個人情報に配慮した相談窓口を備える
いつでも気軽に患者さんが相談できるように、相談窓口の設置が必要となります。
投薬カウンターに仕切りをつけたり、カウンターとは別に相談コーナーを設けたりして、相談スペースを作らなければなりません。
健康サポート薬局である旨を表示する
健康サポート薬局として活動しているのがわかるように、表示する必要があります。
日本薬剤師会のホームページにロゴマークが何種類か掲載されていますので、ダウンロードして掲示しておきましょう。
要指導医薬品等や介護用品等を扱っている
OTC医薬品や介護用品も薬局で供給することが望まれています。厚生労働省からは基本的な薬効を持つOTC医薬品として、48品目が挙げられていますので確認しておきましょう。
参考:日医工MPI行政情報
開局時間
平日に仕事をしている方は土日しか薬局に行けません。どなたでも相談に来れるように、土日にも一定時間、薬局を開けておく必要があります。
土日はどちらかだけ開局していれば問題ありません。
健康サポートの取り組みを行う
薬の相談会や健康教室など、健康維持に役立つ取り組みを行います。栄養相談会や禁煙相談会なども対象です。
薬局に管理栄養士がいる場合は、栄養相談会も開きやすいですね。管理栄養士の腕を発揮する場も増えます。このような取り組みを月に1回は行うことが望ましいです。
健康サポート薬局になるメリット・デメリット
かかりつけ薬剤師の資格が必要な他、相談窓口を設置するなどの手間も必要となります。地域住民にとってはいいことかもしれませんが、薬局側からすればメリットばかりではありません。
メリットとデメリットをそれぞれ確認してみましょう。
健康サポート薬局のメリット
- 総合的な健康サポートを行える
- 薬剤師の仕事の幅が広がる
- 生き残る薬局のための戦略になる
ほとんどの薬局が処方箋を調剤する場としてしか機能できていません。そのような中で健康サポート薬局であることをアピールできれば、「薬局は処方箋がなくても行っていいところなんだ」と認識してもらえます。
健康相談に乗ることで、薬剤師自らが考えて健康管理を実施していくスキルもつくでしょう。調剤報酬改定があるたびに経営が厳しくなる薬局も多いため、薬局がこれからも残るための戦略としても有効です。
健康サポート薬局のデメリット
- 相談窓口の設置費用が必要
- 相談対応要因として人員の確保が必要
- 経営上、導入が難しい薬局もある
相談窓口がない場合は、あらためて設置する必要があります。仕切りで区切るだけでもよいのですが、投薬窓口の数がもともと少なかったり、薬局の敷地が広くないところは物理的に困難なこともあるでしょう。
また相談に乗って欲しい方が来た際に、すぐ対応できるよう薬剤師の頭数も調整する必要があります。調剤業務だけでカツカツな薬局は、新しく薬剤師を雇わなければなりません。
経営に余裕がない薬局であれば、窓口の設置や人員の確保が難しく健康サポート薬局になれない可能性もあります。
実際に2019年12月27日時点での健康サポート薬局の届出数は、全国でわずか1,797件にとどまっています。薬局は全国に約6万軒あることを考えると、かなり少ない数字であることがわかるでしょう。
まとめ
健康サポート薬局は、高齢化が進む日本を薬剤師が少しでも支えられるようにとできた制度です。処方箋のお薬を貰うだけでなく、気軽に健康相談もできる場としての活躍が期待されています。
健康サポート薬局の申請にはさまざまな要件を満たす必要があるため、申請を考えている方は、必要な要件を確認しておきましょう。認知度も低く、届出を行っている薬局もまだ少ないため、目立った活動は見られません。
そのため「絶対に健康サポート薬局になったほうがいい」とは一概に言えないため、まだまだ改善が必要な施策ではありますが、薬局のあるべき姿が実現する取り組みとして期待されています。