薬剤師はお薬が体の中に入ってから、どのようにして効果を表すのかまで知っておくことが求められます。体の中での代謝方法によってお薬の投与経路や剤形に影響が出るためです。
今回は薬物の代謝の話には欠かせない「初回通過効果」についてご説明していきます。これから薬物動態について学ぶ薬学生の方も、もう一度復習したいという薬剤師の方もぜひチェックしておきましょう。
この記事の目次
薬剤師なら知っておこう!初回通過効果とはいったい?
初回通過効果は「肝初回通過効果」とも言います。“肝”という漢字がつくことから、初回通過効果は肝臓と大きく関係のあるものです。
初回通過効果の話をする前に、薬物が体内でどのような動きをするのか今一度確認しておきましょう。
口から投与された薬物は、胃や小腸から吸収され門脈を経由して肝臓を通り、肝臓で代謝されずに残ったものがそのあと血液に乗って全身へ運ばれていきます。その後、腎臓から排泄されるという流れです。
初回通過効果とは薬物が体内に入ったとき、肝臓を通った際に薬物が肝臓にある代謝酵素によって代謝を受けてしまうことを意味します。ここで代謝を受けなかった薬物が全身へと回ってくのです。
初回通過効果を大きく受けてしまう薬物は投与方法や剤形を工夫しないと肝臓で多くが代謝されてしまうため、血中濃度があがりづらく効果も出にくくなります。
薬物には大きく肝代謝のものと腎排泄のものとにわけられる
お薬を患者さんに渡すとき、肝臓や腎臓の働きによっては減薬することもありますよね。それは肝臓や腎臓がお薬と密接な関係にあるからです。
薬物は大きく肝代謝型薬物と腎排泄型薬物とにわけられます。肝臓で代謝されやすい薬物は肝代謝型、一方で肝臓においてはあまり代謝されずに腎臓から排泄されるものを腎排泄型薬物とわけます。
中には肝代謝も腎排泄もそこそこ受けるという中間型の薬物もあります。
肝臓や腎臓の機能が低下している方には投与する薬物の量を調節しないと、血中濃度が高くなり副作用を起こしやすくなることもあるため注意が必要です。
初回通過効果の話と一緒によくでてくるバイオアベイラビリティとは?
初回通過効果の話と一緒に出てくることが多いのが「バイオアベイラビリティ」という言葉。日本語にすると「生物学的利用能」という意味です。
投与されたお薬のうち、どれくらいの割合が全身循環にまで到達したのかを表します。初回通過効果を受けやすい薬物ほど全身に回る薬物の量が減るので、バイオアベイラビリティは低くなりますね。
経口投与AUC/静脈投与AUC × 100
初回通過効果を受けにくくするには?剤形や投与経路で工夫しよう!
初回通過効果を受けやすい=肝臓で代謝されやすいため、血液に移行する薬物の量が少なくなってしまいます。
そうなると薬物が思うように有効血中濃度に達しないため、思うような効果が出なくなってしまうんですね。初回通過効果をどうにかして受けないように工夫をする必要性が出てきます。
初回通過効果を受けにくくすることは可能
お薬の中には初回通過効果を受けやすいがために効果を発揮できないものもあります。このようなお薬をどうにかして効果が出るようにできないの?ということで実はいろいろな工夫がされています。
工夫次第では初回通過効果を受けにくくすることも可能なのです。
初回通過効果を受けない投与経路
初回通過効果とは肝臓で薬物が代謝されてしまうことでしたね。ということは逆に考えると肝臓を通らなければ初回通過効果を受けないとも言えます。
肝臓に血液を運んでくる門脈という血管があるのですが、この門脈を通らない投与方法を取れば初回通過効果を減らすことが可能です。ではどのような投与方法が初回通過効果を受けずに済むのでしょうか。
以下に初回通過効果を受けない投与経路を記しておきます。
- 皮膚
- 目
- 鼻腔
- 肺
- 口腔粘膜
- 直腸中・下部
これらの投与経路は門脈を通らないため、初回通過効果を受けずに薬物の効果を発揮させることが可能です。
逆に次の投与部位は、初回通過効果を受けてしまいます。
- 胃
- 十二指腸潰瘍
- 空腸
- 回腸
- 盲腸
- 上行結腸
- 横行結腸
- 下行結腸
- 直腸上部
初回通過効果を受けない剤形
初回通過効果を受けない剤形はつまり、初回通過効果を受けない投与経路で投与できるような剤形のことを指します。
ざっと記すと以下の通りです。
- 舌下錠
- バッカル錠
- 貼付薬
- 塗布薬
- 点眼薬
- 座薬
胃や小腸、大腸上部などを経由しない剤形が、初回通過効果を受けないものということができます。
肝初回通過効果を受ける可能性が高い投与経路はどれか。1つ選べ。
1.経口投与 2.舌下投与 3.経皮投与 4.経肺投与 5.経鼻投与
解答 1
初回通過効果を回避するために工夫がなされた医薬品例
私たちの身の回りにあるお薬には、初回通過効果を回避するために工夫がなされているものがすでに多くあります。今回はその中から代表的なものを3つご紹介しましょう。
ニトログリセリン
ニトログリセリンは初回通過効果を受ける薬物としてとても有名ですね。狭心症の治療に用いるお薬です。大学の講義でも1回は必ず耳にしたことがあるでしょう。
ニトログリセリンを経口投与した場合、ほとんどが初回通過効果を受け効果を発揮しません。そのため舌下錠やテープ剤として使われています。
エストラジオール
更年期障害障害や閉経後骨粗鬆症などの治療に用いられるエストラジオールは、貼付剤として使用されている薬物です。ちなみ経口薬も存在しています。
ただし経口薬は貼付剤と比べて初回通過効果により血中濃度が安定しにくいこと、血栓形成促進作用が出やすいことが問題となっています。
そのため経口薬よりも貼付剤の方がよいのでは?と考えられる方が多いです。
プロプラノロール
高血圧や狭心症の治療に用いられるプロプラノロールは、初回通過効果によって約70%が代謝されてしまう薬物です。しかし驚くことにプロプラノロールは経口薬として使われています。
経口投与すると初回通過効果を受けてしまうのでは?と思いますよね。プロプラノロールは食後に投与することで初回通過効果を受けにくくすることができる薬物なのです。
プロプラノロールは肝血流量に強く依存する薬物。
食事を摂ると肝臓の血流量が増加し、それによって肝臓にどんどん薬物が運ばれてくることになります。
そうなると肝臓が「代謝がもう間に合わないよ!」となるため初回通過効果の影響を減らすことができるのです。
【肝初回通過効果が著しい薬物】
初めてエステストにトリップ初:初回通過効果
エス:エストラジオール
テスト:テストステロン
にト:ニトログリセリン
リ:リドカイン
プ:プロプラノロール#薬学ごろごろ? はせ@勉強 (@Hase_study) November 11, 2012
肝臓が悪い方が肝臓で代謝されるお薬を飲んだらどうなるの?
肝臓の働きが悪い=薬物の代謝能力が落ちるということ。つまり肝臓の悪い方が肝代謝型の薬物を服用すると通常の方よりも代謝される量が少ないため、必要以上に血中濃度が上がってしまう可能性があります。
同様に腎臓が悪い方が腎排泄型の薬物を服用しても血中濃度が上がってしまうので、とくに高齢者の方にお薬を投与するときは肝機能や腎機能を確認しなければなりません。
まとめ
初回通過効果を受けやすい薬物はお薬が全身に回る前に肝臓で代謝されてしまうため、思うような効果が出ないことがあります。
門脈を通り肝臓に入る投与経路だと初回通過効果を受けてしまうため、初回通過効果を避けたい場合は門脈を通らない皮膚や目、直腸下部などの経路を取るとよいでしょう。
調剤しているときにニトログリセリンやエストラジオールが出てきたら「これは初回通過効果を受けやすいお薬だ!」とぜひ思い出してくださいね。そうすることで服用方法へのより深い理解へとつながるでしょう。