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【薬剤師向け】インフルエンザの新薬、ゾフルーザの作用機序・服薬指導のポイントを徹底解説!

※当記事は、執筆時点(2019年1月)の情報にもとづいて記載しています。詳細は最新の発表・製薬会社の添付文章をご確認ください。

※2020年7月にゾフルーザの情報を新たに更新しました。

冬になると、風邪はもちろんのこと、インフルエンザの流行が気になりますね。

自分自身がインフルエンザにかからないように予防することも大切ですが、薬剤師であれば医薬品の知識も身につけなくてはなりません

タミフルやリレンザ、イナビルなどは前からあるお薬なのでご存じの方も多いですが、比較的新しい「ゾフルーザ」についてはいかがですか?

「産休中のため投薬経験がない」「外科だからインフルエンザの処方箋が来ない」「投薬してるけど詳しいことまでは知らない」という薬剤師さんもいることでしょう。

そこでこの記事では、ゾフルーザの概要服薬指導のポイントについて、くわしく解説していきます。

薬局薬剤師

ゾフルーザの作用機序からタミフルやリレンザとの違い、長所や短所なども紹介しているので、ゾフルーザについて詳しく知りたい方はぜひ参考にしてください。

話題の新薬「ゾフルーザ」とは


まずはゾフルーザの概要や類薬との違いについて、みていきましょう。

ゾフルーザの概要

ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)は、2018年2月に製造販売承認を取得した、国内で最も新しい抗インフルエンザウイルス薬です。

塩野義製薬株式会社が製造販売をおこなっており、成人および小児のA型またはB型インフルエンザウイルス感染症患者に用いられます。

タミフルのように服薬が簡便で、イナビルのように1回で治療が完了するお薬の登場が望まれていましたが、ゾフルーザはこれらをかなえた期待のお薬です

2019年1月ごろには、メーカーの想定していた以上の処方がおこなわれたことにより、品薄状態が続いていました

ポイント!
〈ゾフルーザの作用機序〉
キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害によって、インフルエンザウイルスの転写反応を阻害する。

ゾフルーザとこれまでの抗インフルエンザ薬の違い

ゾフルーザ 作用機序
参考:ゾフルーザ(一般名:バロキサビルマルボキシル)の作用機序と特徴

これまでインフルエンザ治療薬の中心として位置づけられていたのは、「ノイラミニダーゼ阻害剤」という種類のお薬でした。

タミフルやイナビル、リレンザなどが分類されますが、これらは細胞内で増殖したウイルスが細胞外に広がるのを防ぐことで効果をあらわします。

一方で、ゾフルーザは「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤」という、まったく新しい作用機序を持ったお薬です。

インフルエンザウイルス遺伝子からの転写反応を阻害することで、ウイルス自体の増殖をさまたげます。

タミフルやリレンザとの用法用量の違い

以下にこれまでに主流だったタミフルやリレンザ、イナビルの用法用量、使い方をまとめましたのでこちらも参考に比べてみてください。

医薬品名剤形作用機序用法用量
ゾフルーザ錠剤キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤〈成人・12歳以上の小児〉
40mg(体重80kg以上は80mg)を単回投与

〈12歳未満の小児〉
・体重40kg以上 40mgを単回投与
・20kg以上40kg未満 20mgを単回投与
・10kg以上20kg未満 10mgを単回投与
タミフル錠剤ノイラミニダーゼ阻害〈治療に用いる場合〉
・成人で体重37.5kg以上の小児にはオセルタミビルとして1回75mgを1日2回、5日間経口投与
リレンザ吸入剤ノイラミニダーゼ阻害〈治療に用いる場合〉
成人及び小児には、ザナミビルとして1回10mg(5mgブリスターを2ブリスター)を、1日2回、5日間、専用の吸入器を用いて吸入
イナビル吸入剤ノイラミニダーゼ阻害〈治療に用いる場合〉
・成人にはラニナミビルオクタン酸エステルとして40mgを単回吸入投与

・10歳未満の小児には、ラニナミビルオクタン酸エステルとして20mgを単回吸入投与

・10歳以上の小児には、ラニナミビルオクタン酸エステルとして40mgを単回吸入投与
※治療に使う場合のみを記載

タミフルとの効果の違い

単回投与だから飲みやすい、服薬指導がしやすいというメリットのあるゾフルーザ。では主として使われているタミフルと比べて効果に違いはあるのでしょうか。

タミフルとゾフルーザの違いについての論文、「Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents.」から違いを探ってみました。

論文中には
「In the phase 2 trial, the median time to alleviation of influenza symptoms was 23.4 to 28.2 hours shorter in the baloxavir groups than in the placebo group (P<0.05). 」

 

と書かれています。このことからゾフルーザ(バロキサビル)の方が、プラセボよりもインフルエンザの症状を緩和するのにかかる時間が23.4時間~28.2時間短いことがわかります。

次に「The time to alleviation of symptoms was similar with baloxavir and oseltamivir. 」

と書かれていることから、ゾフルーザとタミフルとではインフルエンザの症状緩和にかかる時間に差がないことがわかります。

つまりタミフルとゾフルーザのどちらがよく効くかと聞かれたら、「どちらも同じ」と答えることができるでしょう。

薬局薬剤師

臨床試験によると、インフルエンザウイルスが排出されるまでの時間はゾフルーザが24時間、タミフルが72時間でした。一見ゾフルーザのほうが優秀に見えますが、だからといってウイルスの感染性が弱まるわけではないようです。

ゾフルーザの用法・用量を確認しよう

ゾフルーザは、1回きりの服用で治療が完了するため、用法は簡便ですが、用量はやや複雑です。

ゾフルーザの添付文書を確認してみましょう。

ゾフルーザの効能効果

A型またはB型インフルエンザウイルス感染症に適応を持ちます。

効能効果に関連する使用上の注意

  1. 抗ウイルス薬の投与が A 型又は B 型インフルエンザウイルス感染症の全ての患者に対しては必須ではないことを踏まえ、本剤の投与の必要性を慎重に検討すること。
  2. 本剤の予防投与における有効性及び安全性は確立していない。
  3. 本剤は細菌感染症には効果がない。

用法用量

  1. 通常、成人及び 12 歳以上の小児には、20mg 錠 2 錠又は顆粒 4包(バロキサビル マルボキシルとして 40mg)を単回経口投与する。ただし,体重 80kg 以上の患者には 20mg 錠 4 錠又は顆粒8 包(バロキサビル マルボキシルとして 80mg)を単回経口投与する。
  2. 通常、12 歳未満の小児には、以下の用量を単回経口投与する。
体重用量
40kg以上20mg 錠 2 錠または顆粒 4 包
(バロキサビル マルボキシルとして 40mg)
20kg 以上 40kg 未満 20mg 錠 1 錠又は顆粒 2 包
(バロキサビル マルボキシルとして 20mg)
10kg 以上 20kg 未満10mg 錠 1 錠
(バロキサビル マルボキシルとして 10mg)
引用:添付文書

12歳以上を超える場合には、バロキサビル マルボキシルとして40mg(20mg錠を2錠または10mg顆粒を4包)を投与します。

ただし体重が80kgを超える場合には、80mg(20mg錠を4錠、または10mg顆粒を8包)の投与が必要となります。

また12歳未満では、体重によって3段階に用量が設定されているので、注意が必要です。

基本的には医師が診察時に問診をおこないますが、まれに処方に間違いがある場合もあるので、患者さんの体重を確認した上で投薬をおこないましょう

ポイント!
体重10~20kgはゾフルーザ10mg、20~40kgは20mg、40~80kgは40mg、80kg以上は80mgと覚えるのがオススメです。

ゾフルーザの副作用

ゾフルーザの添付文書は、発売してから今までに3度にわたる改訂が行われています

2018年8月には重大な副作用として「異常行動」が、2019年3月には「出血」、2019年6月には「ショック、アナフィラキシー」が追加されました。

重大な副作用

重大な副作用詳細
ショック、アナフィラキシー(頻度不明)ショック、アナフィラキシーがあらわれることがあるので、異常が認められた場合には適切な処置を行うこと。
異常行動(頻度不明)因果関係は不明であるものの、インフルエンザ罹患時には、転落等に至るおそれのある異常行動(急に走り出す、徘徊する等)があらわれることがある。
出血(頻度不明)血便、鼻出血、血尿等の出血があらわれることがあるので、このような症状があらわれた場合には適切な処置を行うこと。

その他の副作用

その他の副作用発現頻度
過敏症(発疹、蕁麻疹、そう痒、血管性浮腫)頻度不明
精神神経系(頭痛)1%未満
消化器(下痢、悪心)1%以上
その他(ALT・GPT増加,AST・GOT増加)1%未満
参考:添付文書

予防投与ができるよう申請中(2020年7月追記)

ゾフルーザは2020年7月時点では、まだ治療目的でしか服用できません。しかし2019年10月16日に販売元である塩野義製薬がゾフルーザを予防でも使えるように効能の追加申請を行っています。

臨床試験の結果によると、ゾフルーザを投与することでインフルエンザの発症割合をプラセボと比べて86%減少させることができたそうです。

おそらく2021年移行の承認になるのではと言われています。

ゾフルーザの長所と短所


画期的なお薬として注目を集めているゾフルーザですが、もちろん長所ばかりというわけではありません。長所と短所について、みていきましょう。

ゾフルーザの長所

1日1回の経口製剤

タミフルは経口投与で服薬が楽ですが、1日2回5日間服用する必要があり、コンプライアンスが心配ですね。

一方で、イナビルは1度の吸入で治療が完了するものの、吸入の手技にコツが必要で、うまく吸えない方もみられます。

経口タイプのお薬で、1回で服用が完了するということは、最大の長所といえるでしょう。

ポイント!
イナビルのような吸入タイプのお薬は、服用方法が難しいのが難点でした。使い方を説明するあの時間を短縮できるのはかなりのメリットでしょう。また吸入剤は途中で咳き込んでしまう方も多いため、薬局内での感染を防ぐためにも単回投与の錠剤は非常に使い勝手がよいと感じます。

小児や高齢者でも服用が簡便

ゾフルーザの錠剤は非常に小さくつくられているので、服用しやすいことが特徴です。

10mgの錠剤はさらに小さいので、小児でもゼリーやアイスなどに混ぜてしまえば、気づくことなく服用できますね。

タミフルのドライシロップは苦みがあるため、お薬の服用が得意でない小児にとっても、ゾフルーザの方が嬉しいはずです

ウイルスの排出までの時間が短い

ゾフルーザでは、治療効果(症状がなくなるまでの期間)ではタミフルに対して有意差はついていませんが、ウイルスが排出されるまでの時間は短いことがわかっています。

臨床試験においても、体内からインフルエンザウイルスが排出されるまでの時間はタミフルでは72時間だったのに対し、ゾフルーザでは24時間でした。

ウイルスが減少することによるメリットは今のところ明確になっていませんが、周囲への感染を減らす可能性が期待されています。

ゾフルーザの短所

体重によって投与量の調節が必要

ゾフルーザの短所として、体重ごとに投与量を調節する必要があることが挙げられます。

もちろん、医師が体重を確認した上で処方をおこなうので、薬剤師が用量を決定することはありません。

しかし年齢で容易に判別ができるイナビルやリレンザに比べると、確認に手間がかかることは否めませんね。

治療費用が高額になりやすい

ゾフルーザは薬価が高いので、従来の抗インフルエンザ薬に比べて治療費が高額になりやすいという欠点があります。

薬剤名タミフルリレンザイナビルゾフルーザ
剤形カプセル、DS吸入薬吸入薬錠剤
投与方法経口吸入吸入経口
投与期間5日間5日間単回単回
価格(1回の治療あたり)錠剤:2,672円
DS:1,944円
1,441円4,359円体重40kg以上:4877.6円
体重40kg未満:2438.8円
(2020年7月時点)

最も安価なリレンザと比べると、最大で約3,466円(3割負担で約1,031円)以上の差があります

医療経済のことを考えると、すべての症例でゾフルーザを使用することは、必ずしも最善策とは限りません。

医療現場での実際
新薬=よく効くと思われている患者さんが非常に多く、「ゾフルーザをください」と指名される方が非常に多いです。企業の売り込みと患者さんからの需要が高まったこともあり、2018年9月の段階で抗インフルエンザウイルス薬のシェアの65%を超えています。しかしタミフルのほとんど倍の薬価であること、それでいてゾフルーザに何かしらの優位性があるわけではないことが、まだまだ患者さんに浸透していない状況です。

まだまだ未知の部分が多い

ゾフルーザは新しい薬であるため、まだまだ未知の部分があることも、問題点の一つです。

とくにA/H3N2亜型などのインフルエンザウイルスにおいて、耐性ウイルスの問題が指摘されています。

国立感染症研究所からも、2019年1月24日に、耐性ウイルスが患者から検出されたことが発表されています。

インフル薬ゾフルーザの耐性ウイルス、患者から検出│朝日新聞デジタル

臨床試験時(主にA香港型ウイルス)においても、大人の9.7%、子供の23.3%において、薬剤耐性ウイルスが出現していることがわかっています。

今後の動向も踏まえて、しっかりと最新の情報を確認するようにしましょう。

耐性菌がすでに増えてきている(2019年4月追記)

ゾフルーザが医療現場でバンバン使われるようになった当初から耐性菌についての懸念がありました。

その懸念がすでに現実化していることが話題となっています。

インフルエンザの新しい治療薬「ゾフルーザ」を投与されたA香港型のインフルエンザ患者30人を調べたところ、70%余りに当たる22人から、ゾフルーザの効きにくい耐性ウイルスが検出されたことが国立感染症研究所の調査でわかりました。
(参考: 臨床ニュース | m3.com

30人中22人はなかなか多いですよね。この問題を受けて日本感染症学会がゾフルーザに関する「使用基準」を作成することを明らかにしています。

ゾフルーザの服薬指導で気をつけることとは


薬剤師としてゾフルーザの服薬指導をおこなう際に、どのようなことに気を付ければよいのでしょうか。

体重に応じて治療用量が異なることを説明する

ゾフルーザでは、体重ごとに服用しなくてはならない用量が異なります。

インフルエンザは、家族全員が罹患するということも多いため、家族内に異なる用量の患者さんがいるというケースも考えられます

十分な説明をおこなわないと、全員が同じ用法用量で服用してしまい、治療がうまくいかないという可能性も考えられます。

注意
体重が境界域にある場合には、成長に伴って適切な用量が変わってしまう可能性があります。調剤する際には、最新の体重を確認するようにしましょう。

食事との関係があることを知っておく

ゾフルーザの用法用量には、「単回経口投与」という指示のみが記載されていますが、食事との影響があることも知られています

健康成人男性に、バロキサビル マルボキシル40mgを空腹時(14例)又は普通食摂取後(14例)に単回経口投与したときのバロキサビル マルボキシル活性体の薬物動態パラメータを表1に、平均血漿中濃度推移を図1に示す。空腹時投与と比べ食後投与でCmaxは48%、AUCは36%減少した。

ゾフルーザの添付文書によると、空腹時投与と比べ食後投与では、Cmaxは48%、AUCは36%減少することが報告されています。

効果に対してどの程度の影響があるかは不明ですが、食後投与は避ける方が無難といえるでしょう。

すぐに服用してもらうという薬局も多いですが、その際に「食事の影響があるので、ご飯はしばらくしてから食べてください。」などのアドバイスをおこなうようにしましょう。

異常行動のリスクを説明する

ゾフルーザを含めた抗インフルエンザ薬では、異常行動のリスクがたびたび取り沙汰されます

もちろん、抗インフルエンザ自体に問題があるわけではありませんが、患者さんの中には誤った知識を身に着けている方もみられます。

異常行動については、次のポイントを説明するようにしましょう。

  • 抗インフルエンザウイルス薬の服用の有無または種類にかかわらず、異常行動のリスクがある
  • 少なくとも発熱から2日間は、転落などの事故に対する防止対策をおこなうようにする
  • 異常行動は、発熱から2日間以内におこることが多い
  • 就学以降の小児・未成年者の男性において、報告が多い

お薬を服用したから異常行動がおこるのではなく、インフルエンザの症状の一つとして、異常行動があるということを理解してもらえるようにしましょう。

ゾフルーザ 異常行動
参考:塩野義製薬

塩野義製薬からこのようなパンフレットも出ているので、服薬指導で活用してみるのもよいですね。

まとめ


この記事では、ゾフルーザの概要服薬指導のポイントを解説していきました。

画期的新薬であることやその独創性から、ゾフルーザはニュースでもたびたび取り上げられています。

患者さんもテレビやインターネットで情報を得られる時代なので、医薬品の専門家である薬剤師は、さらに高い水準の知識が求められています

この記事の内容を参考にして、自信をもってゾフルーザをご説明できるように、知識を高めていただければ幸いです。

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