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薬剤師に求められる倫理規定や行動規範、薬剤師綱領とは

薬剤師に求められる倫理規定や行動規範、薬剤師綱領とは

多くの職業や集団において、倫理規定(綱領)行動規範というものが定められています。

これは、各分野の専門家などの組織集団に求められる規範や、守るべき規定のことをあらわしています。多くは学会や協会、業界などの組織によって自主的に定められますが、政府や国際機関が介入することもあります。

薬剤師においても、その職域とされる医療行為や学術研究などは、社会的に必要性や重要性が認められおり、日本薬剤師会が中心となり薬剤師綱領や行動規範を定めています

この記事では、薬剤師に求められる倫理規定行動規範薬剤師綱領にはどのようなものがあるのか、みていきましょう。

薬剤師の倫理規定や行動規範とは?


薬剤師としてはたらくためには、倫理規定行動規範の内容をしっかりと理解しておかなくてはなりません。

まずは薬剤師綱領を確認しよう

薬剤師の倫理規定や行動規範にかかわるものの一つとして、昭和48年10月に日本薬剤師会によって制定された、「薬剤師綱領」というものがあります。

一、薬剤師は国から付託された資格に基づき、医薬品の製造・調剤・供給において、その固有の任務を遂行することにより、医療水準の向上に資することを本領とする。

一、薬剤師は広く薬事衛生をつかさどる専門職としてその職能を発揮し、国民の健康増進に寄与する社会的責任を担う。

一、薬剤師はその業務が人の生命健康にかかわることに深く思いを致し、絶えず薬学・医学の成果を吸収して、人類の福祉に貢献するよう努める。

(昭和48年10月 日本薬剤師会制定)

参照:薬剤師綱領 薬剤師行動規範・解説│日本薬剤師会

こちらは3つの条文からなり、「薬剤師はこうあるべき」という理想像をあらわしたものとなっています。

現在定められている薬剤師の行動規範はもちろんのこと、薬剤師のはたらく医薬品関連企業の社是や社訓なども、すべてこの薬剤師綱領の内容が盛り込まれていることがほとんどです。

さらに細かい内容として、薬剤師倫理規定が定められる

前述のとおり、薬剤師綱領の内容は、薬剤師のあるべき姿をあらわした条文のことをいいます。

薬剤師倫理規定は、さらに具体的な責務や仕事内容について定めたものです。こちらは昭和43年8月26日に日本薬剤師会によって制定され、平成9年10月24日に改定がおこなわれました。

前文と全10条の条文で構成されており、医薬品の調剤・創製・供給・適正な使用に至るまでの、「確固たる薬の倫理」が求められることが示されています。

10の条文からなる本文の内容とは

薬剤師倫理規定の条文は、次のように定められています。

(任務)
第1条
薬剤師は、個人の尊厳の保持と生命の尊重を旨として、調剤をはじめ、医薬品の供給、その他薬事衛生をつかさどることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって人々の健康な生活の確保に努める。

(良心と自立)
第2条
薬剤師は、常に自らを律し、良心と愛情をもって職能の発揮に努める。

(法律等の遵守)
第3条
薬剤師は、薬剤師法、薬事法、医療法、健康保険法、その他関連法規に精通し、これら法令等を遵守する。

(生涯研鑽)
第4条
薬剤師は、生涯にわたり高い知識と技能の水準を維持するよう積極的に研鑽するとともに先人の業績を顕彰し、後進の育成に努める。

(最善尽力義務)
第5条
薬剤師は、医療の担い手として、常に同僚及び他の医療関係者と協力し、医療及び保健、福祉の向上に努め、患者の利益のため職能の最善を尽くす。

(医薬品の安全性等の確保)
第6条
薬剤師は、常に医薬品の品質、有効性及び安全性の確保に努める。また、医薬品が適正に使用されるよう、調剤及び医薬品の供給に当り患者等に十分な説明を行う。

(地域医療への貢献)
第7条
薬剤師は、地域医療の向上のための施策について、常に率先してその推進に努める。

(職能間の協調)
第8条
薬剤師は、広範にわたる薬剤師職能間の相互協調に努めるとともに、他の関係職能をもつ人々と協力して社会に貢献する。

(秘密の保持)
第9条
薬剤師は、職務上知り得た患者等の秘密を、正当な理由なく漏らさない。

(品位、信用等の維持)
第10条
薬剤師は、その職務遂行にあたって、品位と信用を損なう行為、信義にもとる行為及び医薬品の誤用を招き濫用を助長する行為をしない。

引用:薬剤師倫理規定

現代の環境にあわせて、平成30年(2018年)1月に改定

薬剤師倫理規定は、一度の全面改定を受けながらも、およそ50年にわたり用いられてきました。

しかし近年では、薬剤師を取り巻く環境は大きく変化しています

薬剤師以外の団体や国際薬剤師・薬学連合(FIP)などの規定を参考に、新しい医療提供体制にふさわしい薬剤師倫理規定をあらためて議論した上で、2018年1月に「薬剤師行動規範」が公表されました。

前身である「薬剤師倫理規定」の流れをくみつつ、医薬分業の進展や患者さんの知る権利、セルフケアの概念などが盛り込まれたことが特徴です。こちらは前文と全15条の条文で構成されています。

薬剤師行動規範の内容を確認しよう


参照:薬剤師綱領 薬剤師行動規範・解説│日本薬剤師会

薬剤師行動規範とは、2018年1月24日に日本薬剤師会が「薬剤師倫理規定」を新しくしたものです。ここでは、実際に薬剤師行動規範に書かれている内容をみていきましょう。

前文に書かれている内容とは

まずは前文の内容を確認しましょう。

憲法や関連各法を遵守することが宣言され、憲法で保障された人権の中でも「最も基本的な生命及び生存に関する権利を守る責務」を薬剤師は担っていることが明示されています。

薬剤師は、国民の信託により、憲法及び法令に基づき、医療の担い手として、人権の中で最も基本的な生命及び生存に関する権利を守る責務を担っている。
この責務の根底には生命への畏敬に基づく倫理が存在し、さらに、医薬品の創製から、供給、適正な使用及びその使用状況の経過観察に至るまでの業務に関わる、確固たる薬(やく)の倫理が求められる。

薬剤師が人々の信頼に応え、保健・医療の向上及び福祉の増進を通じて社会に対する責任を全うするために、薬剤師と国民、医療・介護 関係者及び社会との関係を明示し、ここに薬剤師行動規範を制定する。

(平成30年1月 日本薬剤師会制定)

参照:薬剤師綱領 薬剤師行動規範・解説│日本薬剤師会

従来の薬剤師倫理規定から、新たに盛り込まれた文言として、「使用状況の経過観察」というものがあります。薬剤師が身近な薬の専門家として、調剤後も継続的に服薬管理をおこなうことが示されています。

また、これまでは「薬剤師職能を全うする」と表現されていた部分が、「社会に対する責任を全うするために、薬剤師と国民、医療・介護関係者及び社会との関係を明示」という文言に置きかわっています。

こちらも、ただ調剤をおこなうのではなく、チーム医療によって患者さんの治療や健康増進にあたるべきであるということが、示されていると考えられます。

15の条文からなる本文の内容とは

次に、薬剤師行動規範の本文の内容を確認しましょう。

それぞれの条文は決して長いものではなく、あくまでも薬剤師としての基本的倫理を規定したものです。

1. 任務
薬剤師は、個人の生命、尊厳及び権利を尊重し、医薬品の供給その他薬事衛生業務を適切につかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって人々の健康な生活を確保するものとする。

2. 最善努力義務
薬剤師は、常に自らを律し、良心と他者及び社会への愛情をもって保健・医療の向上及び福祉の増進に努め、人々の利益のため職能の最善を尽くす。

3. 法令等の遵守
薬剤師は、薬剤師法その他関連法令等を正しく理解するとともに、これらを遵守して職務を遂行する。

4. 品位及び信用の維持と向上
薬剤師は、常に品位と信用を維持し、更に高めるように努め、その職務遂行にあたって、これを損なう行為及び信義にもとる行為をしない。

5. 守秘義務
薬剤師は、職務上知り得た患者等の情報を適正に管理し、正当な理由なく漏洩し、又は利用してはならない。

6. 患者の自己決定権の尊重
薬剤師は、患者の尊厳と自主性に敬意を払うことによって、その知る権利及び自己決定の権利を尊重して、これを支援する。

7. 差別の排除
薬剤師は、人種、ジェンダー、職業、地位、思想・信条及び宗教等によって個人を差別せず、職能倫理と科学的根拠に基づき公正に対応する。

8. 生涯研鑽
薬剤師は、生涯にわたり知識と技能の水準を維持及び向上するよう研鑽するとともに、先人の業績に敬意を払い、また後進の育成に努める。

9. 学術発展への寄与
薬剤師は、研究や職能の実践を通じて、専門的知識、技術及び社会知の創生と進歩に尽くし、薬学の発展に寄与する。

10. 職能の基準の継続的な実践と向上
薬剤師は、薬剤師が果たすべき業務の職能基準を科学的原則や社会制度に基づいて定め、実践、管理、教育及び研究等を通じてその向上を図る。

11. 多職種間の連携と協働
薬剤師は、広範にわたる業務を担う薬剤師間の相互協調に努めるとともに、他の医療・介護関係者等と連携、協働して社会に貢献する。

12. 医薬品の品質、有効性及び安全性等の確保
薬剤師は、医薬品の創製から、供給、適正な使用及びその使用状況の経過観察に至るまで常に医薬品の品質、有効性及び安全性の確保に努め、また医薬品が適正に使用されるよう、患者等に正確かつ十分な情報提供及び指導を行う。

13. 医療及び介護提供体制への貢献
薬剤師は、予防、医療及び介護の各局面において、薬剤師の職能を十分に発揮し、地域や社会が求める医療及び介護提供体制の適正な推進に貢献する。

14. 国民の主体的な健康管理への支援
薬剤師は、国民が自分自身の健康に責任を持ち、個人の意思又は判断のもとに健康を維持、管理するセルフケアを積極的に支援する。

15. 医療資源の公正な配分
薬剤師は、利用可能な医療資源に限りがあることや公正性の原則を常に考慮し、個人及び社会に最良の医療を提供する。

(平成30年1月 日本薬剤師会制定)

参照:薬剤師綱領 薬剤師行動規範・解説│日本薬剤師会

これらの条文のほとんどは、これまでの薬剤師倫理規定でも言及されていたものであり、目新しいものではありません。

しかし「6. 患者の自己決定権の尊重」「7. 差別の排除」「14. 国民の主体的な健康管理への支援」はこれまでになかった考え方であるので、押さえておく必要がありますね。

ポイント!
「8. 生涯研鑽」や「9. 学術発展への寄与」、「10. 職能の基準の継続的な実践と向上」についても、全くあたらしいものではありませんが、これまでは「生涯研鑽」の一文であらわされていた内容であるため、要チェックといえます。

条文を抜粋してさらに詳しく見てみよう

これまでになかった新しい考え方である、「6. 患者の自己決定権の尊重」や「7. 差別の排除」、「14. 国民の主体的な健康管理への支援」について、もう少し詳しく見ていきます。

6. 患者の自己決定権の尊重

薬剤師は、患者の尊厳と自主性に敬意を払うことによって、その知る権利及び自己決定の権利を尊重して、これを支援する。

簡単にいえば、患者さんが治療内容についてしっかりと理解できるように配慮して接しようというもの。薬剤師は医療知識を持っていますが、患者さんは知らないことだらけです。

薬剤師は患者さんが知りたい情報をわかりやすく伝えられる努力をしなければなりません。同時に患者さんが知りたくない情報をムリに提供しないよう気遣う必要性もあります。

7. 差別の排除

薬剤師は、人種、ジェンダー、職業、地位、思想・信条及び宗教等によって個人を差別せず、職能倫理と科学的根拠に基づき公正に対応する。

国籍や見た目で対応を変えるべきではない、という内容です。当たり前のことではありますが、見た目で対応を変えてしまうことは意外と日常であるかと思います。

服装や髪色でその人のイメージを作ってしまい、勝手なイメージのもとで接してしまうことを、薬剤師が意識しないうちにやっているかもしれません。

服装や髪色、人種などにとらわれず公正に対応する必要があります。

14. 国民の主体的な健康管理への支援

薬剤師は、国民が自分自身の健康に責任を持ち、個人の意思又は判断のもとに健康を維持、管理するセルフケアを積極的に支援する。

セルフメディケーションに関する条文です。病院にかかるほどではないけど少し体調が優れないときは、OTC医薬品などを使用して体調を自己管理することが求められるようになりました。

薬剤師はセルフメディケーションに大きく関わることのできる職業です。ドラッグストアだけでなく、薬局でも気軽に相談できる環境を作ろうと「健康サポート薬局」をすすめるなど、さまざまな取組が進められていますね。

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薬剤師綱領や行動規範を仕事にどう生かす?

薬剤師綱領や行動規範を仕事にどう生かす?
薬剤師綱領や行動規範は、専門家である薬剤師にとって非常に大切なものです。しかし現場ですぐに活用するということは、イメージがわかないのではないでしょうか。

ここでは、実際の仕事においてどのように生かせばよいのか、考えていきます。

薬剤師としてはたらく上での原点に

薬剤師綱領や行動規範は、薬剤師としてはたらくうえで、原点となる考え方です。

会社や上司の指示のなかで、「これってどうなんだろう?」「倫理的に大丈夫かな?」と迷うことがあれば、この薬剤師綱領や行動規範に立ち返りましょう。いくら会社の指示とはいえ、倫理的に許されないことをおこなってしまえば、個人にも責任が問われかねません

平成4年の医療法改正では、医療の担い手として薬剤師が明記されました。平成8年の薬剤師法の改正では、薬剤師による情報提供が義務化されました。薬剤師の職域や責任は日々変わりつつあり、倫理規定行動規範へと形を変えました。

時代に合った薬剤師としてはたらくためにも、これらの流れをしっかりと読み取り、アップデートしていくことが求められるのです。

薬剤師綱領や行動規範にもとづいた後輩指導を

医療の世界は日進月歩であり、毎日のように新たな発明がおこなわれています。現場ではたらいていても、日々新しい発見がありますね。

行動規範の中でも、薬剤師は自らの知識と技術の水準を高め、後進を育成していくことが求められています

8. 生涯研鑽
薬剤師は、生涯にわたり知識と技能の水準を維持及び向上するよう研鑽するとともに、先人の業績に敬意を払い、また後進の育成に努める。

医療人としてふさわしい専門的能力と高い倫理性を獲得していくためには、これらの行動規範にもとづいた指導がおこなわれることが必要不可欠です。

薬学部においても、平成14年に策定された「薬学教育モデル・コアカリキュラム」にもとづいて、倫理教育をおこなうことが規定されています。

今後を担う薬剤師を適切に育成できるように、これらの薬剤師綱領や行動規範にも目を通しておきましょう。

まとめ


薬剤師に求められる倫理規定行動規範薬剤師綱領について解説していきました。

「倫理」「規範」というと、何やら難しいイメージもありますが、書かれている内容はどれも当たり前のことばかりです。

どんな仕事でも、長年続けていると緊張感が失われていしまい、心の隙も生まれます。時には、この行動規範や薬剤師綱領を読み返して、原点に立ち返ってみてはいかがでしょうか

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