製薬会社や医薬品卸が苦境に立たされていることはご存知でしょうか?
製薬会社などの医薬品関連企業は、景気の影響を受けにくいことが知られており、安定した業界として長らく人気でした。しかし近頃になって、大規模なリストラや体制の変更、経営の見直しを行っており、業界の動向が注目されています。
この記事では、製薬会社や医薬品卸の将来性や今後の展望について、考えていきます。
薬局薬剤師
この記事の目次
製薬会社のMRの将来性は厳しい!?
製薬会社のMRというと、高収入の代名詞ともいわれており、30代にして年収1,000万円を超えることも珍しくありません。薬学生のなかでもMRを志望する方は多く、人気の業種といわれています。
しかし、ここ最近の傾向をみていると、医療費の抑制や薬価改定の影響で、将来性は厳しくなりつつあります。詳しくみていきましょう。
そもそもMRの仕事とは
MR(Medical Representatives)は医薬情報担当者とよばれ、製薬企業の営業部門に所属して業務をおこないます。
第一章 総則 第二条 4
この省令で「医薬情報担当者」とは、医薬品の適正な使用に資するために、医療関係者を訪問すること等により安全管理情報を収集し、提供することを主な業務として行う者をいう。
医師や薬剤師に対して、自社の医療用医薬品を中心とした情報提供をおこない、医薬品の適正な使用と普及を図ることがおもな業務です。使用された医薬品の有効性情報や安全性情報の収集も行います。
薬局に薬の案内や説明会をしに来てくれるメーカーの方をイメージしていただくと、わかりやすいでしょう。病院の廊下で医師を待っているスーツ姿の男性(最近では女性も多いですが)も、多くはMRですね。
MRになるためには、必ずしも薬学部を卒業している必要はありませんが、医薬品の知識をもつ薬剤師は仕事においても有利です。
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薬剤師→MRについてもここでまとめています。
薬剤師からMRへの転職ってどうなの!?年収や給料の期待値・仕事内容・期待できる働き方と強みは?対個人よりも、対企業・対社長・対医師で仕事をしたい人にはオススメかも。
平成30年薬価改定が製薬会社にあたえた影響とは
平成30年に行われた薬価改定は、製薬会社にとって非常に苦しいものとなりました。
診療報酬や調剤報酬はプラス改定がおこなわれる中で、薬価は1.65%のマイナス改定となってしまったのです。
とくに「長期収載品」はマイナス幅も大きく、製品によっては薬価がほぼ半減したものもあります。長期収載品の割合が大きいメーカーでは、大幅な減収になってしまいました。
国は、団塊の世代が75歳をむかえる2025年がひとつの区切りとだと考えており、2025年までに今後も医療費の抑制を行っていくと明言しています。医療費の抑制において切っても切れないのが、薬価の抑制なのです。
平成30年度ほどではありませんが、令和2年の診療報酬改定でも薬価はマイナスになっています。
これらをみても、製薬会社の将来は明るいとはいえませんね。
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【2025年問題】高齢化が進む日本で薬剤師がはたすべき役割は?在宅医療・併設複合型の店舗増加・「健康の起点」となることがカギか
製薬会社やMRの今後はどうなっていく?
製薬会社やMRの今後として第一に予想されるのは、新卒定員の削減やリストラを含めた人員削減です。
参考:AnswersNews
実際、2014年から2019年の6年間で、MRは8,594人も減少しています。
また風邪薬「パブロン」や栄養ドリンク剤「リポビタンD」などで知られる大正製薬は、大幅な人員削減を行ったことで話題となりました。早期退職に手を挙げた人数は対象者の約30%、全従業員の約15%です。
また週間ダイヤモンドの記事によると、アステラス製薬、サノフィ、ベーリンガー・インゲルハイム、MSDなどの大手製薬会社においても、大規模なリストラが行われていることが明らかにされています。
高給の製薬大手にリストラの嵐、医療産業のエリートが選手交代|週間ダイヤモンドオンライン
とくに40代以上のベテランMRほど給料が高いため、リストラの対象になりやすい傾向にあります。ベテランをリストラして、安い労働力で働いてくれる若者を残す算段ですね。
この流れは、今後もさらに続いていくと考えられています。そのほかにも、福利厚生の見直しや経費削減、コストカットもおこなわれるでしょう。
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医薬品卸だって厳しい!MSの将来性は?
薬価改定によって製薬会社が打撃を受けるのはもちろんですが、医薬品卸も苦境に立たされていることはご存じでしょうか。
高額医薬品の普及によって、医薬品全体の取引額は増加傾向にありますが、その内情は明るくありません。詳しくみていきましょう。
そもそもMSの仕事とは
MS(Marketing Specialist)は医薬品の卸販売担当者のことで、医薬品の販売や最新の医療情報を提供することが主な業務です。
物流・商流・情報流の3つを担っており、病院やクリニック、調剤薬局といった医療機関を訪問して、医薬品の供給や価格交渉、情報提供をおこないます。
医薬品の納品や価格の交渉だけでなく、新薬の情報提供やMRとの橋渡しもおこないます。薬のことだけでなく、近隣の医院や薬局の情報を教えてくれることもありますね。
MRは自社の製品のみを取り扱っているので、「自社の医薬品に関する専門知識」が求められています。一方で、MSは多くのメーカーの医薬品を取り扱っているので、「さまざまな医薬品の幅広い知識」が求められています。
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医薬品卸が苦しんでいる原因は?
ここ最近になって、医薬品卸においても早期退職やリストラによる人員の整理がおこなわれています。医薬品の取引額は増えているにもかかわらず、医薬品卸が苦しんでいるのは、なぜかみていきましょう。
・ジェネリック医薬品の割合が大きくなっている
先発医薬品は製薬メーカーも力を入れている製品であり、医薬品卸に支払われるアローアンス(リベート)も大きく設定されています。薬価も高く、特許によって独占販売ができるため、価格競争もおこりません。
しかしジェネリック医薬品は、基本的には薄利多売の製品であり、医薬品卸に入る利益も少ないものとなります。同じ価格の取引額であったとしても、先発医薬品を売る方が利益率は高いのです。
・抗がん剤やC型肝炎治療薬などの高額医薬品が増えている
ここ数年で増えている医薬品として、「オプジーボ」や「ソバルディ」などの高額医薬品が挙げられます。これらは1症例当たりの薬剤費が高額なので、売り上げに貢献しやすいと思われがちですが、MSの立場としてはあまり売りたい医薬品ではありません。
理由としては、一般的な慢性疾患のものに比べて利益を上げにくいことがあります。これらの医薬品が使用されるのは大学病院や基幹病院などの大きな病院に限定されることが特徴です。そのためMSが得意なクリニックや中小病院では、症例がほとんどありません。情報提供に高度な知識を要されることもあり、MSの取り組みを評価するものではないのです。
・コロナ禍で経営悪化
新型コロナウイルス感染症の拡大により、さらに医薬品卸は打撃を受けています。
2021年3月期の決算によると、スズケンや東邦、アルフレッサなど主要な卸で営業利益率は平均でわずか0.7%しかありませんでした。
利益率が0.7%というのは、1億円売り上げをたてても利益が70万円しかないということ。利益の薄さが際立ちます。
売上金額の前年比を見るとスズケンでは71.9%、東邦は75.5%、アルフレッサでは56.6%と大幅に割っていることも見逃せません。
医薬品卸 経営悪化が再び深刻化、営業利益率1%割れ…相次ぐ後発品の品質問題が重荷に | AnswersNews
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・直販メーカーの台頭
直販メーカーの存在も、看過することはできません。最近では医薬品卸を介さずに医薬品を供給する、直販メーカーが増えています。
納入までに時間がかかる、品目数が限られる、包装規格が大きいものしかないといったデメリットもありますが、それらを帳消しにしてしまうほどの低価格で薬を調達できるのです。直販メーカーを利用されてしまうと、医薬品卸にマージンが入らないため、大幅な減収となってしまいます。
医薬品卸やMSの今後はどうなっていく?
医薬品卸の大手といえば、アルフレッサHD・メディパルHD・スズケン・東邦HDの4社が有名です。しかし全国には、さらに多くの医薬品卸があり、今も吸収合併により統廃合がすすんでいます。
先日も、業界大手の東邦HDとスズケンが業務提携を結んだことで話題となりました。大手4社を交えた価格競争に打ち勝っていくためには、統廃合も余儀なくされているのです。
東邦HD、スズケンと顧客支援システムで提携│日本経済新聞
また薬価改正に伴う減収に対抗するためか、卸業務以外にも手を出す医薬品卸も現れてきています。リハビリ施設や調剤薬局を開いたり、地域住民の見守りなどの取り組みをはじめているのです。
副業をする方が近頃では増えてきています。医薬品卸もこのようなサイドビジネスをする起業が今後増えていくかもしれません。
【コラム】MR・MS不要説とは?
私は少し前まで、薬剤師の免許を持ちながら、中堅製薬会社でMRとして働いていました。そのときに良く耳にしたのが、「MR不要論」というものです。
現在ではインターネットの普及に伴い、国内外の最新の医療情報を簡単に検索できるようになりました。医師や薬剤師向けのポータルサイトやメールマガジンに登録するだけで、端末一つでさまざまな情報が手に入ります。
そんな時代になった今、「MRのためにわざわざ時間を割いて面会する必要は無い」と考えられるようになったのです。
もちろん、「MRとの交流が好き」「接待や慰労会が楽しみ」「資材やプロモーション品が欲しい」という医師もいますが、公正競争規約などの自主的な制限によって、MRができることも限られてきています。
私が新卒入社した2010年代前半は、ちょうど接待が禁止されたタイミングでした。コンプライアンスに厳しい時代でもあります。「おたくのメーカーはそんなこともしてくれないの?」と怒られることもありました。
「MS不要説」というものも出てきています。共同購入や直販メーカーを利用することで、卸を介さずに医薬品を取引できるようになり、MSの存在価値も問われているのです。
もちろん、どちらの仕事も無くてはならないものですが、数が多すぎることは否めません。年収も、今の平均年収や他業種の情勢を考えると、高すぎるでしょう。
「高市場先」とよばれる患者数の多いクリニックなどでは、1つの施設に3名のMRが担当していることもあり、日ごとに医師に面会して薬の名前をひたすらPRしています。はたしてここまでする必要があるのでしょうか?
「MR不要説」や「MS不要説」が出てくるのも、無理のない話なのです。
まとめ
製薬会社のMRや医薬品卸のMSの将来性について、考えていきました。
医療業界は全体的に苦しくなりつつあります。とくにこれらの2業種は厳しい状況におかれています。早期退職に手を挙げて、薬剤師として第2のスタートを切る方も増えています。
しかし、MRやMSの仕事が完全になくなる日がくることは、ありえません。MRやMSが提供する有効性や安全性のデータは、医師や薬剤師が最終的に薬の採用を判断する上で非常に有用です。
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