2021年に総務省から発表されたデータによると、65歳以上の高齢者の割合は全人口の28.7%を占めており、超高齢化社会がますます加速しています。
団塊世代が後期高齢者(75歳以上)となり、医療費や介護費が急増することが懸念されている2025年問題も目前です。
高齢者の割合が増えることに伴って、地域医療に貢献している調剤薬局の役割も変化しなければなりません。
では今後、どのような役割が調剤薬局の薬剤師に求められるようになるのでしょうか。今回は2025年問題にどう薬剤師が立ち向かうべきか、これからの薬剤師に求められる期待についてご紹介します。
薬局薬剤師
薬剤師なら知っておきたい2025年問題とは
第一次ベビーブームの世代(団塊世代)が2025年に後期高齢者に分類される75歳を超えることによって、医療費が増加するであろうと危惧されているのが2025年問題です。
具体的にいくら医療費が増えるのかはを表にまとめてみました。
人口 (2012年) | 人口 (2025年) | 1人あたりの医療費(2011年) | 1人あたりの医療費 (2025年) |
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75歳以上 | 1,519万人 | 2,179万人 | 89.2万円 | 134万円 |
65~74歳以下 | 1,560万人 | 1,479万人 | 55.3万円 | 83万円 |
64歳以下 | 9,805万人 | 8,409万人 | 17.5万円 | 26万円 |
2011年の段階でもすでに75歳以上の方は、1人あたりの医療費が年間89.2万円ありました。それが2025年になると134万円にまで跳ね上がると推測されているのです。他の年齢層と比べても75歳以上の医療費がずば抜けて多いこともわかるでしょう。
約3人に1人が高齢者となる上、75歳以上になるとさまざまな疾患を発症するリスクが高まることから、医療費の圧迫が懸念されています。
国はジェネリック医薬品を推進したり、セルフメディケーション税制を実施するなどしていますが、思うように医療費は下がっていません。
薬局薬剤師
薬局の概念を変えよう!薬剤師がこれからやるべきこと
多くの方は調剤薬局のことを「処方せんを持っていくとお薬が貰えるところ」と認識しています。患者さんが持ってきた処方せんを元に薬剤師が調剤し、お薬を渡すのが調剤薬局の主な仕事。
たしかにこの認識は間違っていません。しかしただお薬を渡すだけの調剤薬局はもう時代遅れです。2025年問題が近づいてきている今、調剤薬局の概念は少しずつ変化してきています。
患者さんの気軽な“相談役”になる
調剤薬局を「気軽な相談ができる場所」にしようとする働きがあちこちで見られています。
少し体調が気になるとき、お薬の飲み方がわからないとき、病気について相談したいときなどに気軽に立ち寄れるような場所があると嬉しいですよね。
コンビニの数よりも多いと言われる調剤薬局で、いつでも気軽に相談ができるようになったらどれだけ便利なことでしょうか。
それにちょっとしたことを薬剤師に相談してくれれば、病院に行くべきか、市販薬などでも対応ができるのかを薬剤師が判断できるので、医療費の削減にもつながります。
国家予算の半分を医療費が占めている日本ですが、これからの調剤薬局の在り方によっては大きく医療費にも貢献できるでしょう。
患者さんの健康を管理する
調剤薬局は、患者さんのお薬の管理だけをしていればいい?もちろんそんなことはありません。調剤薬局は患者さんのお薬の管理だけでなく、健康の管理もするべきところ。
ただし実際に健康の管理をできている薬局は、まだあまりないでしょう。超高齢化社会である今、どれだけ健康に生きられる期間を長くできるかが重要視されています。
どんなに長生きできても長年寝たきりでは健康とは言えません。
まだまだ高齢者が増えていくと言われている日本で、薬局で患者さんや地域の方と接することでいかにして健康寿命に関われるのかがこれからは大切です。
地域包括ケアシステムに参加する
来る2025年問題に立ち向かうべく、厚生労働省が地域包括ケアシステムの提案をしました。
地域包括ケアシステムとは高齢者でも住み慣れた町で暮らし続けられるよう、医師や薬剤師、看護師や介護士などの医療スタッフがチームとなってサポートしていく仕組みのことです。
薬剤師であれば主に以下の内容に力を入れることになります。
- 在宅医療
- かかりつけ薬剤師になって患者さんの健康を管理する
- OTC医薬品や健康食品、サプリメントの提案を行う
- 健康相談教室やお薬相談会を開く
かかりつけ薬剤師を目指されている方は周りにも多いですね。上記のような取り組みを患者さんを取り囲むスタッフと連携しながら行っていきます。
アドヒアランスを高める
アドヒアランスとは、患者さんが積極的に治療に参加していくことです。
薬剤師が患者さんのアドヒアランスを向上させるためには、いかにして処方されたお薬をしっかり飲んで貰えるように服薬指導できるかという点が大事になるでしょう。
どんなによい薬があっても、しっかり服薬してもらわなければ治療効果は思うように出ません。薬を飲んでもらえるような服薬指導ができれば残薬も減らせるので、ぜひアドヒアランスを高める意識を持ちましょう。
セルフメディケーションを推進していく
セルフメディケーションとは、市販の医薬品を使って体調管理を自分でしていくことです。医療費を削減するために、セルフメディケーションの推進がすでに行われています。市販薬の購入費は国の医療費には含まれないためです。
たとえばちょっとした風邪や肩こり、目のかゆみや鼻炎であれば市販薬でも十分に症状を抑えられるケースも少なくありません。
セルフメディケーション推進の中心となるのが、ドラッグストアで働いている薬剤師や登録販売者です。
「この薬剤師や登録販売者なら安心して相談できる」
「何かあったらまずドラッグストアで相談してみよう」
と思ってもらえるようになると強いですね。
いまさら聞けないセルフメディケーション税制・医療費控除が受けられる市販の薬って…?対象商品・医療費控除・Amazonで人気の薬についても薬剤師が解説!
フィジカルアセスメントの技術を身につける
人の体に触れてはいけないと言われてきた薬剤師ですが、現在は逆に「薬剤師もフィジカルアセスメントができるようになろう」という動きが見られています。なぜならフィジカルアセスメントによって副作用の発見が容易になるからです。
下手をすると薬で副作用が出ているのに、その副作用を止めるためにまた新しい薬が処方されてしまうということもあります。患者さんの健康を考えればもちろん良いことではありません。しかも追加した薬の分だけ医療費は増加します。
日本薬剤師会が公開している「薬剤師の将来ビジョン」にも有効な治療や副作用の発見のために薬剤師がフィジカルアセスメントを実施する必要があると書かれていますね。
薬剤師のフィジカルアセスメント・医療行為はどこまで可能!?意義・講習・法律・厚労省基準・問題点について解説していきます。
薬剤師の役割は調剤だけじゃない!広がる可能性・高まる期待
超高齢化社会が進むことにより調剤だけしかしない薬局はあまり好まれなくなるでしょう。
もっと親身になっていろいろな相談に乗ってくれるような薬局や、地域医療に貢献して健康を守ろうとしてくれる薬局のほうが今後は必要とされるようになっていきます。
すでにそのような調剤薬局を目指して取り組みを始めているところも多いです。では具体的に、どのような取り組みを始めているのでしょうか。
いろいろな相談ができる場所を目指して
調剤薬局はお薬を貰うときしか行かないという方が多い中、いつでも気軽に相談しに行ける薬局があったら嬉しいもの。そんな場所を目指して動きを見せている薬局が現れ始めています。
LINEや電話で相談
いつでも気軽に気兼ねなく相談できるようにと、LINEや電話での相談受付をしている薬局があります。
薬局の待合室にLINEのバーコードを貼っておき、そこから誰でも調剤薬局のLINEに相談を送れるようにしているのです。
また薬局のホームページにもコードを貼っておくことで、そこからも登録できるようにします。
相談したいことがあるけど、薬剤師と一対一だと話しにくい、他の人に話を聞かれたくないという方でもLINEならとても気軽に相談できますね。
LINEだと高齢者の方はあまりやっていないかもしれません。そんな高齢者の方でも気軽に相談できるように、他に電話での相談を受け付けているところもあります。
電話相談を始めているところは、すでにけっこう多いのではないでしょうか。24時間対応で電話を受け付けしている薬局もあるので、深夜や朝早くでもすぐに薬剤師とつながります。
直接顔を合わせなくても、必要としているときに気軽に相談できるため、心の健康維持にもつながります。
三重県にある「こうなん薬局」は、LINEでのお薬相談をすでにスタートしている薬局。薬局に行く時間がない方、悩みを周りの方に知られずに相談したい方でも気軽に相談できます。もちろん相談にお金はかかりません。
電子薬歴をipadでも記入できるようにしたり、副業をOKにしたりするなどの取り組みもしている注目度の高い薬局です。
大賀薬局は福岡県を中心に展開を広げている調剤薬局。一部の店舗では、急な患者さんにも対応できるように24時間体制で電話相談を受け付けています。
すべてのひとに心強い「マイ・ファーマシー」を目指してどんなときでも患者さんの対応をできるように取り組みを始めている薬局です。
薬に頼らない健康管理の方法を情報提供
本当の健康を守るためには、お薬の管理だけではたりません。まだお薬を飲んでいない方も、これから飲むかもしれない方もすべての方の健康を管理できる薬局が望ましいです。
薬に頼らない健康管理の方法として、食事や軽い運動の指導があります。どちらも薬剤師の専門ではないため、薬剤師の力だけで行うのは難しいかもしれません。
管理栄養士や看護師、理学療法士など他の医療スタッフと協力し合って地域の方のQOL向上に貢献していきます。
在宅医療を取り入れる薬局が増えている
より患者さんの近くに行けるように、薬局に直接来られない方の管理もできるようにと在宅医療や薬の配達を取り入れる薬局も少しずつ増えています。
超高齢化社会が進んでいく日本の医療に、これらがどのように働くのでしょうか。
患者さんの生活により密着して健康を管理できる
在宅対応をする調剤薬局が増えている理由は、薬局に来れない患者さんの管理をするため。これが大きな理由です。疾病を持っているすべての方が薬局に来られるわけではありません。
中には足腰が弱っていて、なかなか外に出られないお年寄りの方も大勢います。そこで地域包括ケアシステムの一環として、薬剤師は在宅医療をするわけです。
直接自宅にお伺いすることで、患者さんの負担を減らせますし残薬の確認もしっかりとできます。
患者さんが在宅医師に言いにくいことでも、薬剤師になら伝えてくれることもるのでお話をしっかり聞くことも大切です。
ちなみに薬の配達をする薬局もありますが、こちらはただ配達をするだけなので患者さんと触れる時間はあまりありませんので要注意。
参考:健康豆知識|公益社団法人日本薬学会
残薬の管理は医療費削減に大きく貢献することが期待されています。
超高齢化社会である日本を支える
現在の日本は、約4人に1人が65歳以上の高齢者です。2025年には3人に1人が高齢者になると推測されています。
増えていく高齢者の方を支えるために薬剤師ができることは何でしょうか。薬局に来れないような方も管理するためにはやはり在宅医療が手っ取り早い方法。
患者さんには家に待っていてもらうだけでよいので、大きな負担はかけません。自宅に直接お伺いすることで薬局にいるときよりも、より親密に接することも可能。
自宅で患者さんと会うからこそわかることも多くあります。薬局の窓口では「薬はしっかり飲んでいます」と言っている方でも、いざ自宅に行ってみるとたんまりお薬が余っていたなんてことも。
残薬の調整をしっかりできるのは在宅だけだと言われることもあるくらい、服薬コンプライアンスの良し悪しは薬局だけではわかりません。
在宅は患者さんのためはもちろん、残薬を確認しムダなお薬の処方を減らすことに大きく貢献します。
これからますます膨れ上がるだろう医療費を抑える有効な手段といえます。
まとめ
高齢者が増えていく社会の中、薬剤師にできることは何でしょうか。何をするべきなのか、どうすれば地域医療に貢献できるのかを考えて実行していくことが、これからの調剤薬局には期待されています。
気軽にいつでも相談できるLINEや24時間対応の電話は、地域住民に「いつでも相談できる」という安心感を与えられるため、患者さんと薬局との信頼関係を築くことにも大きく影響するでしょう。
在宅医療も高齢者が増えていく日本では今後、薬剤師の重要な仕事の1つなる可能性があります。
残薬の確認を目で見て直接行えるので処方量の調整がしやすく、圧迫している医療費の削減に大きく貢献できるためです。
薬局薬剤師