「分割調剤」をしたことはありますか?分割調剤とひとくちに言っても、実は大きく3つの種類があります。
「分割調剤の種類による違いがいまいちわからない」
「分割調剤の流れをしっかり理解しておきたい」
このような方に向けて、今回は分割調剤の種類から違い、調剤点数やメリットなどについて詳しくご紹介します。
薬局薬剤師
この記事の目次
分割調剤の種類とそれぞれの流れ
分割調剤には以下の3つの種類があります。
- 長期保存が困難な場合の分割調剤
- ジェネリック医薬品をお試ししたいときの分割調剤
- 医師の指示による分割調剤
どういう意図で分割調剤をするのかによって取れる点数も異なるため、まずは分割調剤の種類について押さえておきましょう。
①長期保存が困難な場合の分割調剤
14日を超える処方せんで、「すべてのお薬を調剤して患者さんに渡したら保存上、問題がある」と判断した場合、保存上の問題がない範囲で分割して調剤することができます。
シロップ剤で長期の処方が出たときなどに行うことが多いです。
基本的な流れは次のようになります。
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②ジェネリック医薬品をお試ししたいときの分割調剤
はじめて使うジェネリック医薬品の場合、「いきなり全部ジェネリックにするのは不安だから、まずは1週間分だけお試しで使いたい」と言われる患者さんがいます。
そのようなときは1週間分だけジェネリック、残りのお薬は体調によってジェネリックにするか通常のお薬にするのかを決めることが可能です。はじめて使うジェネリック医薬品に限りこのような分割を行えます。
調剤の流れは次のとおりです。流れは長期保存が不可能なときの分割調剤と変わりません。
③医師の指示による分割調剤
長期保存のもジェネリック医薬品の場合も、医師への相談や連絡がいるものの薬剤師の判断でできる分割調剤です。それとは別に医師の指示による分割調剤というのも存在します。
これは医師が患者さんを診察して処方せんを発行する段階で、医師の判断により分割調剤をするように決められたものです。
次のような流れで調剤を進めていきます。
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リフィル処方せんと分割調剤の違い
分割調剤と似ているものに、リフィル処方せんというものがあります。リフィル処方せんはアメリカをはじめとした海外ですでに導入されているシステムです。
ざっくりとした違いは以下の通りとなります。
分割調剤 | リフィル処方せん | |
---|---|---|
分割可能回数 | 最大3回まで ※長期保存が困難な場合は制限なし | 必要に応じて何回でも可能 |
医師への確認 | 医師の指示がなければ確認が必要 | 確認の必要なし |
分割調剤は長期保存が困難な場合を除き、最大で3回までしか分割できません。一方でリフィル処方せんは医師が回数を回を指示していればその回数通り使えます。医師が「何回でも使える」と指示すれば回数無制限です。
リフィル処方せんを渡された患者さんは、薬がなくなるタイミングで薬局に行き、必要な薬の名前を伝えます。すると病院に行くことなく必要なお薬を薬局で貰うことができるのです。
アメリカの処方せんのほとんどが発行日から1年間有効なので、1年以内であれば患者さんのタイミングでお薬を貰えます。
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3つの分割調剤の違いとは?分割回数や調剤点数を比較!
3種類の分割調剤について、大まかな違いはわかっていただけたでしょうか。医師の指示によるもの以外の分割調剤は、薬剤師の判断によって行うものです。
また医師の指示があるかどうか以外にも取れる点数や処方せんの様式、分割できる回数などにも違いがあります。
分割調剤の違いを理解しよう!
それぞれの分割調剤には、細かな違いがいろいろとあります。
参考:日医工医療行政情報 調剤報酬全点数解説(2020年度改訂版)
医師の指示による分割調剤は2018年にルールが明確化!処方せんの扱い方に注意
医師の指示による分割調剤というシステム自体は2016年にはあったのですが、その方法やルールが明確化されたのは2018年になってからです。
具体的には以下のルールが明確化されました。
- 分割調剤の処方せんの様式
- 分割回数の上限を3回までに設定
- 残薬がある場合は調整する
それぞれについて詳しく見てみましょう。
分割調剤の処方せんの様式
医師の指示による分割調剤の場合は専用の処方せんを使う必要があります。2回分割するなら2枚の、3回分割するなら3枚の処方せんが必要です。
参考:平成30年度診療報酬改定
また処方せんとは別に、別紙の用紙も必要となります。別紙には保険医療機関の保険薬局からの連絡先、保険薬局の住所や名称、保険薬剤師の名前は調剤日などを記入します。
この処方せんと別紙は、すべての分割調剤が終わるまでは患者さんに保管しておいてもらわなければなりません。また患者さんの状態を把握していくために、できるだけ同じ薬局に薬を貰いに来てもらう必要もあります。
もしも初回はA薬局で、次はB薬局というように別々の薬局にかかる場合は、あらかじめ最初にかかったA薬局に連絡してもらうよう患者さんに伝えておくとよいです。
患者さんの了承を得た場合はA薬局での患者さんの情報をあらかじめB薬局に伝えておくことで、B薬局でもスムーズに分割調剤を行えるようになります。
分割回数の上限を3回までに設定
医師の指示による分割調剤は患者さんの状態が安定している場合のみ行え、分割の限度は3回までです。3回が限度なのでもちろん2回に分割することもできます。
残薬がある場合は調整する
1回目の分割で処方されたお薬がまだ患者さんの手元に残っていた場合は、残薬分を考慮して2回目の分割分を調剤しなければなりません。
たとえば30日分×3で分割しており、1回目の処方せんのお薬が2日分余っていたとします。
その場合2回目の処方せんでは、処方せんの記載通りに30日分を調剤するのではなく医師に確認を取った上で28日分を調剤するのがルールです。
医師の指示によって分割調剤をやる意義やメリットとは?
医師の指示による分割調剤は、上の表を見てもらうとわかるのですが分割調剤点数は算定できません。
長期保存の問題やジェネリック医薬品のお試しの場合は算定できるのに、医師の指示による分割では算定できないのです。
分割調剤をする手間はかかるのに調剤料が増えないのなら、分割調剤はなんのためにあるのでしょうか。分割調剤の意義やメリットについて見てみましょう。
分割調剤をやる意義
実はまだ、厚生労働省から分割調剤の目的についてハッキリとは名言されていません。
分割調剤をすることで患者さんは何度も薬局に足を運ばなければいけませんし、薬剤師は残薬の調整や長期服用による安全性などを考慮する必要が出てきます。
それでいて分割調剤点数は加算できないわけです。ではなぜ分割調剤をする必要があるのでしょう。
おそらくですが、患者さんの通院回数を減らしたり残薬の調整をすることによって国の医療費を減らすことが目的なのではないでしょうか。
医療費が国の予算の半分近くを圧迫しているこの現状。さらに調剤されたにもかかわらず、飲まれずに家に眠っている残薬だけで500億円以上にもなると言われています。
通院回数と残薬が減れば医療費の圧迫が減るのはなんとなく想像できますね。また海外にあるようなリフィル処方せんの先駆けなのではと考える薬剤師もいます。
病院には行かずに薬局に行けばお薬を処方してもらえます。リフィル処方せんの期限が切れるまで患者さんは病院に行きません。
そのため薬剤師がしっかりと患者さんの状態を見ていく必要があります。
分割調剤のメリット
分割調剤をしても薬局に大きな点数は入りません。それでも分割調剤をするメリットとは何でしょうか。やはりメリットとしては以下のものが挙げられるでしょう。
- 残薬を調整できる
- 患者さんが病院に行く手間を減らせる
- 患者さんのアドヒアランスを改善できる
残薬の調整や患者さんの手間を減らせるのは大きいですね。
医療者側への負担が大きく、それでいて報酬は大してないというのが分割調剤。厚生労働省がどうにかこうにか医療費を減らすために考え出した案と考えられなくもありません。
ただし岡山県薬剤師会の報告によると、分割調剤はアドヒアランスの改善につながることも示唆されています。分割調剤を行った10人の患者のうち、6人でアドヒアランスの改善が見られたそうです。
参考:分割調剤のエビデンス拡充を
薬剤師の業務実態調査によると、分割調剤の処方箋を発行していると答えた医療機関はわずか9%しかありませんでした。
参考:分割調剤の推進、日医と日薬の意見が対立
分割調剤の問題点は?あえて分割調剤にする意味はあるのか?
医療費を削減できる可能性があることを考えると、分割処方にまったく意味がないとは言えません。むしろこれで医療費を削減できるのならぜひ協力したいところ。
しかし分割調剤にはいくつか問題点もあります。
たとえば、
- 患者さんが処方せん+別紙を途中でなくしてしまう可能性がある
- 途中から来なくなってしまう可能性がある
といった問題です。すべての処方が終わるまで、処方せんと別紙は患者さんに保管しておいてもらいます。次の分割のお薬を貰うときにまた持ってきてもらわなければいけません。
途中でなくしてしまう可能性もありますし、2回目の来局の際に処方せんと別紙を持ってくるのを忘れてお薬を受け取れないということも起こりうるでしょう。
もし私が分割調剤用の処方せんを何ヶ月か自宅で保存しておいてねと言われても、きちんと保管しておける自信はありません。また何度も薬局に足を運ぶのが面倒で患者さんが途中で来なくなってしまう可能性も十分に考えられます。
もちろんその場合は患者さんの自宅に連絡をして催促をしますが、それでも来ない方は出てくるでしょう。
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医師の指示によって分割調剤をやるデメリットとは?
デメリットとしては、次のものが挙げられるでしょう。
- 薬剤師の負担が増えるのに算定があまり取れない
- 患者さんのスケジュール管理という業務が追加される
分割処方せんを受け取ると、次の来局予定日を確認し、時には患者さんへ連絡して薬をもらいにくるよう促す必要もあります。
また、もしも患者さんが1回目と2回目とで違う薬局で薬を貰いたいと希望すれば、患者さんの情報を来局予定の薬局へ引きつぎしなければいけません。
手間がかかるわりに点数は特別多く算定できるものではないため、経営者目線で見るとデメリットが大きいように感じます。
まとめ
2018年の調剤報酬改訂で明確化された医師の指示による分割調剤。厚生労働省としてはおそらく医療費を削減したいとの考えがあるのでしょうが、実際はまだ分割調剤の処方せんが発行されることは少ないです。
リフィル処方せんの練習段階と捉えれば薬剤師側にもメリットがありそうですが、現段階で分割調剤にメリットを感じている薬剤師はそう多くありません。
しかし、もしも分割調剤が当たり前のように行われるようになったら、薬剤師に求められる技術はもっともっと増えていくでしょう。
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